遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

2/10 高体連説明会

2/3の説明会に引き続き、2/10にも高体連の説明会が開催されました。
事故時の講習会を統括していた前登山専門委員長と、死亡した8名が属していた1班を引率していた教諭から私たちがお願いした質問書の回答と説明が行われました。2班以降の講師の説明と登山専門部の総括についての説明は時間切れで今回はできませんでした。次回はまだ未定です。

質問書への回答

登山専門委員長と、死亡した8名が属していた1班を引率していた教諭からの回答は短く、最低限の言葉のみ書かれていました。

「認識していませんでした。」「危険性はないだろうと考えました。」「その通りだと思います。」「調査しませんでした。」「予想できませんでした。」

きっと何もウソはないのでしょう。だけど、なぜ認識しなかったのか、なぜそう考えたのか、本来どのようにすべきだったか、といった踏み込みがなにもありません。

短い回答からは事故を起こしたことを後悔し、うなだれて泣いている姿は想像できます。だけど事故を起こした張本人であるからこそ語れる状況、そこから得られる教訓、どうすべきであったかといった解析や再発防止策があるかと思います。そこを反映せずして実効性のある再発防止策はあり得ないのではないでしょうか。
これは事故を起こした教諭本人というより、登山専門部の専門部長、専門委員長に言いたいです。事故を起こした本人が自分から語るのは困難だと思いますので、彼らがしっかりと事故の状況と本質的な原因を本人たちから聞き出し、その内容をしっかりと登山専門部内で議論し、事故発生の本質を反映した対策に活かしていただきたいと思います。

ただうなだれて泣いていたかったのは私たち遺族の方です。事故の状況も対策の説明も、こちらから要求が必要で、ただ泣いていることもできず、要望や質問を考え、真実を求めようとするとうなだれていることも許されませんでした。

表面的で抽象的な原因解析や対策ではなく、しっかりと事故に向き合って、その教訓を活かした対策がつくられることを心から望みます。

斜面に入り込んだ理由

明らかに雪崩発生の危険性の高いあの斜面に、なぜ入り込むことができたのか、理由をずっと追い求めていました。これまでは「危険だと思わなかった」の一言で済まされていました。

今回の回答では「今までの経験を踏まえて総合的に判断して雪崩の発生はないだろうと考えた。」との回答でした。「今までの経験」とは何かとその場で問うと、「国内や国外のいろいろな雪のある山に登った経験。それらの山で今まで雪崩に遭ったことがなかったら。」との回答。「その経験のどこから判断できるのか?」さらにそう問うと、「今回事故に遭った斜面より急角度の斜面や新雪の斜面でも雪崩に遭遇したことがなかったから。」とのことでした。

やはり間違った経験から判断し、危険な斜面に入り込んだのだと明らかになりました。

さらに、事故現場の斜度の認識を問う別の質問では、「目視でしたが、斜度は25°~30°と考えていました。」との回答。これもきっと以前に事故現場と同じぐらいの斜度の斜面で雪崩に遭遇することもなかったので、このくらいの斜度は雪崩が発生しやすい30°以上の角度ではない、と間違った経験から間違った認識を得て、間違った判断をしたのではないでしょうか。ここまでは訊けませんでしたが。

さらに「自分の知識が古く、斜度30°以上の斜面が危険で、斜度25~30°での危険性は考えていなかった。最新の知見では斜度25°以上を気を付けるとあったが認識がなかった。」とも言われました。その知識は昭和60年に当時の文部省から刊行された登山者への指導書「高みへのステップ」から得た古い知識で、最新の知識を得るべきだったとの反省も述べられました。

「高みへのステップ」には確かにそうともとれる記述があります。(「高みへのステップ」は中古で入手しました)しかし、斜度30°以下は大丈夫だという記述もなく、へ理屈にも聞こえます。その記述の情報が古かった、それだけではなく、間違った知識と間違った経験の組み合わせがこの事故を引き起こしたのだと思います。

(ア) 地形
雪崩の出やすい傾斜はおよそ35~50°である。30°くらいの緩い斜面の場合には、かなりの大雪のときに出るので、数は少ないが、破壊力はすさまじいい。60°以上の急斜面では、降るそばから塵雪崩となって流れてしまうが、岩壁の部分的に傾斜の緩い場所には雪がたまるので注意したい。
尾根のような凸面にも吹きだまりはできるが、一般には谷のつめの急斜面が危ない。山の積雪は一般的に山ろくよりも稜線に近い所で深くなっている。谷底にいたのでは、想像もつかないほど深いことがあり、そこれずるずると誘い込まれる例が多い。

「高みへのステップ」

古い刊行物ですが、「高みへのステップ」には今回の対策にも通じる記述がいくつもあります。
どうせ思い出すのであれば、斜度の話ではなく、そのような記述を頭に思い浮かべ、講習の中止決定をしていただきたかったものです。

以下、雪崩に関する箇所を引用させていただきます。

(コ)登山者は雪崩が出そうなとき、出るか出ないかを克明に論じる必要はない。出るものと決めて行動しなければならない。冬山の初心者や中級者は、一度雪崩を見るまではなかなか退却したがらないが、自分の生命を守るために他人に対する言い訳を見つける必要はない。避難例を調べてみると、その日に現れた最初の雪崩に遭遇する場合が非常に多い。

(サ)ある程度落ち着いた積雪でも、刺激が十分に強ければ雪崩が起こる。静かに登下降する人は雪崩を起こす機会が少ない。不安定な斜面を通るとき、隊を分散させるのもそのためである。特に雪崩を呼びやすいのは、墜落や確保のショック、スキーによる急停止(ことに重荷を背負っているとき)などである。

(タ)降雪の翌日など雪崩の不安があるとき、キャンプを出発するときは極めて慎重であるが、そのうちにラッセルなどに集中していて雪崩に対する警戒心が消えてしまうことがある。こうした状態を避けるためには、休憩のたびに「図6」のフロー・チャートを思い出してチェックするとよい。これはまた優れた新人教育にもなる。

(チ)人から臆病者と思われたくないために、多くの登山者が雪崩で命を落としている。ことにリーダーとフオロワーとの間にあまり大きな能力差のないときに、こうした心理に陥りやすいが、雪崩の危険が相手の時には、人の思惑など気にかけることは許されない。安全は何ものにも優先されなければならない。そのためには「図6」のフロー・チャートに責任を負わせて退却するのも一方法である。

(ツ)隊を組むときは、一般には人数が多いほど心強いものであるが、雪崩の場合は別である。むしろ少人数の方が冷静に判断し、慎重に行動しやすい。騒々しい雰囲気で行動すると、神経を危険に集中させにくくなる。リーダーは孤独になって観察し、判断しなければならない。

 

 

 


コメント

  1. 海明 より:

    HPで公開する方法は,たいへん良い方法だと思います。
    私自身は第三者ですが,テレビで言い訳している先生方に腹立つ思いでした。
    ご遺族としては,どこで区切りをつけて良いのかわからないのだろうと思います。
    各御家族様も,それぞれ複雑な思いが有ると思います。
    責任をとろうとしない,できるだけ当面の対処ですまそうとする人には,本当に腹立ちます。
    非力な私達にとってHPで訴えかけるのは,最大の効果が有ります。
    つまらない圧力に屈する事無く,地道に続けて下さい。
    何もできませんが,応援しています。
    私にとって那須の茶臼岳はいい景色の山です。

  2. AAA より:

    「目視でしたが、斜度は25°~30°と考えていました。」との回答。

    この発言自体が「高みへのステップ」へ責任転嫁する為に、後から考えた言い訳としか思えませんね。
    実際の雪山登山の現場で、いちいちこの斜面は何度くらいだからと具体的な数字を思い浮かべながら雪崩に対して安全とか危険だと判断する人がいるとは思えません。

    雪質や地形を含めた総合的な判断ではなく、斜度にのみ固執するのであれば、それはかなり希有な登山者です。
    ちなみに雪崩の現場の斜度は35度以上との報道があります。

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