遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

部活動での事故

部活動での事故

部活動での事故

 いろいろな方の勧めで著書 ”ブラック部活動” で有名な名古屋大学准教授の内田良先生の著書を読み進めています。 ”教育という病~子どもと先生を苦しめる「教育リスク」(光文社新書)” では「教育リスク」という言葉をテーマとし、体罰や事故、教員の負担などをエビデンス(科学的根拠)を基に論じておられます。

 組体操や2分の1成人式についてや部活動の在り方など考えさせられる内容が取り上げられています。

学校安全のヒント

 その中で部活動の事故についての興味深い内容がありました。
 死亡事故が相次ぐ柔道の危険性が2012年ごろにマスコミに報じられ、その後の対策によって安全性を高めた柔道界の取り組みが述べられていました。その結果、毎年のように発生していた死亡事故が2012年以降の3年間ゼロ件になったとのことです。柔道界の意識改革によって事故を大幅に少なくすることができたのです。残念ながら2015年には再度死亡事故が発生してしまったとのことですが、ここに部活動の在り方や学校での安全についてのヒントがあるのではないでしょうか。

 柔道や登山の活動に限らず、部活動での安全は長年ないがしろにされ続けてきたのではないでしょうか。こういった取り組みが広がり、部活動やスポーツ活動全般の安全性が高まってほしいと願います。
 この柔道の死亡事故低減の結果を生み出す原動力になったものはなんであったのかは気になるところです。長年放置されてきた柔道の安全性にメスが入れられたのはなぜだったのでしょうか。学校での武道の必修化に伴いマスコミに騒がれたことがキッカケなのでしょうか。それとも問題意識を持った関係者の方が積極的に活動し、この結果を生み出したのでしょうか。

原動力

 8人もの命が失われた今回の事故に対する対応は、見栄えの良い表面的な対策だけで、県や教育関係者が本気で対策に取り組んでいるようには感じることができません。この柔道界を動かした原動力が今回の事故の対策にもあることを願います。

 一方、それでも柔道の死亡事故が途切れなかったことに部活動の問題の根の深さを感じます。
 先日3/25に発足した日本部活動学会の中で、「中高の競技経験だけで、部活動顧問はそのスポーツの専門家を名乗るべきではない。教員は教科の専門家。」との共通認識が持たれたと耳にしました。今回の事故を受けた再発防止策では顧問の先生への研修の充実なども言われていますが、顧問や指導者に向けた安全性の教育だけでは問題は解決せず、部活動自体の制度設計があいまいであることが浮き彫りになってきたように感じます。私たちも顧問の先生に登山の専門家になることを求めているわけではありませんし。

柔道での死亡事故

 柔道では毎年のように部活動での死亡事故が発生しており、それが当たり前の状態として放置されてきた実態があったとのことです。また、著書の中では柔道家らが集まるとある学会の年次大会での経験が語られており、当時柔道事故が軽視されていたことがわかります。

「日本では、過去30年あまりの間に、学校の柔道で118名の子どもが亡くなっている。」
「⋯、海外での柔道による死亡事故は、仮に起きているとしてもごくわずかであり、少なくとも日本のような多発している状況は生じていないと結論付けられる。」
「柔道では、その固有の動作(投げ技、受け身)のなかで死亡事故が起きている。そして、その死亡の原因のほとんどが固有動作が引き起こした頭部外傷によるものである。」

 そこでは、柔道事故に関連する報道が相次いでいることについて、それを「柔道バッシングだ」と断じたり、「柔道にはいい側面があるはずなのに、ネガティブなところを強調しすぎ」と残念がったりする意見が多くあった。「柔道というのは、そもそも人が死ぬ覚悟をもってやるものだ」という過激な意見を熱弁する柔道家もいた。

柔道界での事故防止対策

 しかし、柔道事故が一気に社会問題化した2012年以降、状況が変わりました。
 なにがあったのでしょうか?
 その間に頭部外傷の予防を中心とした安全対策の取り組みが開始されたそうです。

⋯ 2012年以降、死亡事故がゼロになったという事実である(2015年4月時点)。
⋯ 2009年に4件、2010年に7件(町道場での小学生の死亡2件を含む)、2011年に3件と死亡事故が続いていて、柔道事故が一気に社会問題化した2012年以降、突然にゼロ件になったのである。驚くべき変わりようである。

⋯その答えは、簡単である。学校の部活動をはじめとする柔道の指導現場で、頭部の外傷に対する意識が高まったからである。

2010年に入ってから全柔連では二村氏らの尽力により、頭部外傷の予防を中心とした安全対策の取り組みが開始された。事故防止の施策は、数多くある。公認指導者資格制度の確立、学校現場向けの指導教本の作成、さらにはそれらを統括する安全指導プロジェクト特別委員会の設置などである。頭部外傷の予防は最優先事項である。

2011年度から試行的に全柔連が設けた「公認柔道指導者資格制度」(2013年度より完全実施)では、学校や町道場などの三段以上の柔道指導者には、全員が都道府県の柔道連盟(協会)開催の「安全指導講習会」を受講するよう要請がされた。欧州会では、先の「柔道の安全指導」に沿って、頭部や頸部の事故防止をはじめとして安全指導を徹底することが求められた。

その後に向けて

 全柔連「柔道の安全指導」では事故発生の要因についてこう述べられています。

受傷者の苦痛や家族の負担を考えたとき、不可抗力や避けることのできないこととして責任を回避することが許されるものではありません。事故の要因の分析は、指導者や管理者が安全対策を講じるうえで欠かせないことです。

 これに対し、内田先生は著書の中で「事故防止のための明確な意志が読み取れる」と評されています。その通りだと感じます。その上でこの取り組みについて以下のように述べ、高く評価されています。こういった取り組みが広がり、部活動やスポーツ活動全般の安全性が高まってほしいと願います。

柔道にけがはつきものと考えている限りは、このような結果はけっして生まれなかったであろう。事故のエビデンスを直視し、それにもとづいて対策を立てれば、子どもの命が救われる。この「柔道事故防止モデル」の成果は、柔道に限らず、他の競技種目にも適用できるはずである。

 

 

 

 


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