遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

登山計画作成のためのガイドライン素案に対する意見書を提出しました

第6 安全管理上、留守本部の設置は必須であること

1 留守本部の設置について必須とすべき

 第1章第3項、組織体制では、学校や高体連等の留守本部の設置について必須とすべきである。

2 意思決定に関与できるシステム

 検証委員会報告書の中において、組織体制構築として本部体制が整っていることが安全管理上の前提であると書かれている。本部を支援する留守本部についても連絡体制の中に位置づけられている。
 本件事故においては、留守本部が設定されず、意思決定、緊急時の対応、保護者等への情報提供が後手後手になった。主催者である登山専門部長や高体連会長は、事故発生時には適切な指導・助言を全くしていない。
 留守本部が意思決定に関与できるシステムが構築されていれば、本件講習会はこのような形で実施されたはずがなく、8名の命を救えた可能性が高いのであるから、留守本部を設置しなければならない。

第7 素案の文章に主語の記載がない箇所が多いこと

1 ガイドライン全体

 素案であることからやむを得ないのかもしれないが、主語の記載がない箇所が多々ある。以下、いくつか列挙する。
 たとえば、第1章第3項において、「登山を実施する上では、こういったリスクを十分に認識し、適切な対策を講じる必要がある」としている。誰がこういったリスクを十分に認識するのか、誰が適切な対策を講じるのか不明である。これでは、チームワークを形成したり役割分担をしたりすることはできないであろう。むしろ責任転嫁を助長するものであり、明瞭な記載を心掛けるべきである。
 同じように、第1章第3項で、「事故等により中断を決断しても」とあるが、誰が中断を決断するのか不明確である。

2 第3章第5項

 事前準備・事前指導について、誰が行うものであるのか不明確である。「身体・体力面でのトレーニングによる基礎体力の養成」とあるが、これは生徒に求められるものであろう。一方で、「日常の健康管理及び健康状態の把握」は、引率者・教員が行うものであろうか。それとも、生徒自身も把握するべきものであろうか、判然としない。
 事前準備・事前指導を求めるのであれば、誰が行うものか明確にしなければガイドラインの意味がない。
 なお、他校の生徒を引率する場合、その引率者は他校の生徒のことまで管理することができないのは言うまでもないが、どのようにするのであろうか疑問である。

3 第3項第6項(3)

 事故等が発生した場合に、誰が救助要請を行うのであろうか。また、事前に応急措置の知識を身につけておくのは誰であろうか。

4 第4章第2項

 「適切な役割分担の下、実施される必要があることから、立案時から、参加者全員で話し合い計画を立案することが大切である」としている。適切な役割分担とあるが、誰がどのように何時決めるのであろうか、また、「参加者全員」とは生徒も含むという趣旨でよいのか。

第8 情緒的な記載を避けるべきこと

 ガイドラインは、これに基づいて合理的に、教師や生徒が登山計画について判断するものである。しかし、第1章第5項において、「肝に銘じて取り組む」としているが、情緒的なものであり、合理的な記載ではない。ガイドラインという性質上、情緒的な記載は避けるべきである。

第9 集団登山

 第2章第1項において、「部活動登山や学校行事における集団登山は、学校及び教員の責任において行われる必要がある」としている。本件那須雪崩事故での教訓がなんら活かされていない。結局、現場に責任を押しつけるものでしかない。

第10 引率者の要件

1 素案の内容

 素案では、「引率者には、少なくとも一人は、登山指導の経験が5年以上あり、かつ、公益財団法人日本スポーツ協会認定の指導員資格を有するか、または、国立登山研修所等で実施される県が指定した者を置くことを必須とする」としている。

2 要件が不十分であること

 しかし、登山指導経験が5年以上の経験がある教員の重大な過失である判断ミスが本件事故を発生させたのであり、この要件にはなんら意味があるものではない。5年の登山指導経験がどのような指導経験かも不明である。その引率者がどのような冬山に登ったことがあるのかも不明である。
 スポーツ庁通知でも、「必ず複数の引率者の引率体制とし、少なくとも1人(リーダー)は、冬山のような厳しい環境下での登山について豊富な知識と経験を有する者であり、山岳に関する資格を有していることが望ましい。なお、資格に準じるものとしては、国立登山研修所又は各都道府県が主催する研修会の履修とともに、一定の難易度以上の積雪期登山のリーダー経験を有し、継続的に活動していることが望ましい。また、リーダー以外の引率者においても、登山に係る研修会・講習会に積極的かつ継続的に参加するなど、自ら資質向上に努めること」としている。
 登山指導経験が5年以上の経験があるというのは、「冬山のような厳しい環境下での登山について豊富な知識と経験を有する者」とまではいえない。つまり、スポーツ庁の通知で望ましいとされたものを満たすものではない。スポーツ庁の通知自体が、指導者の条件として、「望ましい」ものを挙げるだけで明確にしていないが、重大事故を発生させた本県においては、スポーツ庁で望ましいとされたものに沿ったものとするべきであろう。
 そもそも、このような要件を満たす教員がいないのであろうが、そこまでして冬山登山を部活動として行う必要があるのか検討すべきであろう。

第11 リーダー

1 素案の規定

 第3章第3項において、登山の組織体制について規定している。これによれば、「学校活動における登山の真のリーダーは引率者となる教員ではあるが、生徒の主体性・責任感等を育成する観点からも、参加する生徒の中からリーダーを決め、日ごろから仲間たちとの結束力を高めていくなど、チームワークや主体的な活動を促していく」としている。

2 引率者との関係

 しかし、リーダーと引率者との関係が不明確である。リーダーと引率者の主張が異なった場合、どのように対処するのであろうか。リーダーの役割についても明確に記載されていない。第1章第2項でも、「チームワークの中で任された自分の取るべき行動について主体性を持って取り組む」ことが意義や目的としているが、リーダーについては何ら記載されていない。

第12 安全対策

1 事前の下見

 第3章第6項(2)において、「事前の下見は……有効である」としている。しかし、単に有効であるのは当然であるが、事前の下見は「必須」としなければならない。むしろ、事前の下見をすることは当然として、ただ見に行くだけでは不十分であるから、下見をどの程度まで行うのかを明記するべきである。
 9頁のフローにおいても、事前の下見(実踏)をすることを入れるべきである。

2 生徒の健康チェック

 第3章第6項(2)において、生徒の事前の健康状況を把握することについて触れているが、事前のチェックポイントを作成し、単なる生徒からの報告にとどめるべきではない。

3 救急対策

 引率者が救急対策まで行う必要があるのか検討する必要がある。引率者や生徒が応急措置について事前の知識を得ることは必要であるが、引率者が救急対策までできるとは到底思われない。その責任は養護教諭などの専門職を充てるべきである。

第13 結語

 遺族としても弁護団としても、高校生が安全に登山をすることができることができて初めて「生涯にわたる健全な心と身体を培い、豊かな人間性を育む基礎となる」と考えている。上記の意見を踏まえた上でガイドラインについて再考されたい。

以上


コメント

  1. AAA より:

    相変わらず「冬山」という単語が並んでますね。
    「登山計画作成のためのガイドライン素案」には言及がないみたいですけど、例えば、ゴールデンウィークのアルプスなんかはどういうふうに定義付けしてるんでしょうかね?
    積雪期ではなく残雪期で、冬山じゃなくて春山ですし。

    そもそも那須雪崩事故の時も、どちらかと言えば、残雪期で春山でしょう。
    一応、降雪があれば中止と明記されていますが、雪が降らなければ、同じようなことをするのも可能なように読み取れます。

    雪山を「冬山」というよくわからなくて狭い範囲でのみ定義付けしてはいないでしょうか?

    今までに何度も書いていますので、「冬山」等の単語にケチをつけるのはこれで最後とします。

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