遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

登山の引率は教員でないとダメなのでしょうか?

教員による引率には無理がある

教員が引率する登山は、生徒・教員がたくさん乗った大型路線バスを一般ドライバーが運転するようなものです。大型路線バスを一般ドライバーが運転したからと言って必ず事故に至るわけではありませんが、無理があり、危険な場面に遭遇した際にまともな判断ができるとは思えません。

大型路線バスを運転するためには一般ドライバーとは異なる技術と知識が必要で、免許も異なるものが求められます。引率登山も同様に、自分だけが登山する場合と異なる技術と経験が必要だと考えられます。引率登山をするための十分な知識や経験がない教員が引率する登山は無理があり、危険なものであるとしか思えません。

登山引率に必要な知識と経験

栃木県では雪上の活動は禁止の方針が打ち出されており、雪山登山は実施しないことになっています。しかし、長野県をはじめとした複数の県では現在も高校の部活動として雪山登山を実施しています。

那須雪崩事故は基本的な雪崩の知識があり安全に対する意識があれば防げたはずの事故でした。一方、雪崩の危険性を判断し、他者の安全に係る業務に従事するレベルとなるためには7日間程度の講習とその後数シーズンの雪山の経験が必要と聞いています。他者の命を預かる者に対する一週間の雪崩講習というのは、北米では40年以上前から当たり前に行われており、最低その程度の日数は必要ということが共通見解として持たれているとのことです。

自然は人を区別することはありません。教員が引率する部活動の登山だからと言って安全レベルを低くすることはできないはずです。部活動で雪山登山を引率されている顧問教員は、これほどの訓練と経験を得て生徒を引率されているのでしょうか?疑問に感じます。

「そんなに長期間の、料金も高い講習は教員には無理」と言われる方がいらっしゃるでしょう。
また、「そんな講習ではなくても国立登山研修所などで受講する短期間の講習でも十分だ」といわれる方もいらっしゃるでしょう。

実際、顧問教員にそれだけのレベルの知識と経験を求めるのは酷だし、現実的だとは思いません。だからこそ、知識と経験をもったガイドを同行させ、自分たちの力量を過信することなく安全に登山を実施していただきたいと願います。

那須雪崩事故は半端な知識と根拠のない自信をもった山岳部顧問が生徒・教員を引率し、雪崩の危険性の高い斜面に足を踏み入れて発生したものです。きっと地元の山に詳しい山岳ガイドのような方がその場にいて意見を聞いていればあんな危険な斜面に足を踏み入れることはなかったはずです。

山岳ガイドの同行を必須とすべき

事故を反省して対策を考えたならば、山岳部の活動には山岳ガイドのような専門家が同行すべきだと容易に結論付けられるものと思います。そして事故現場は、栃木県内の標高もそう高くはないスキー場付近だったのですから、登山する山の標高がどうであれ、そこが県内であろうが県外の山であろうが、専門家の同行は必須とすべきであろうと思います。

しかし、事故の再発防止策として栃木県教育委員会が定めたガイドラインでは、山岳ガイドの派遣を想定する場面はきわめて限定的です。
再発防止策の中ではガイドレシオ(登山者と山岳ガイドの比率)の違いからか山岳ガイドではなく「登山アドバイザー」とされていますが、県内の山への登山では5年以上の登山経験のある顧問教員が引率していれば登山アドバイザーの派遣は基本不要と判断されています。(根名草山のみ派遣推奨)

県外の山であっても、標高が高く、難易度が比較的高い山への登山のみ登山アドバイザーの派遣が「推奨」されているだけです。また、あくまで「推奨」であり、実際に同行が必要かどうかは登山計画審査会で審査し、決定されるとのことです。実質的に登山アドバイザーが派遣される場面は極めて限定的だと思われます。また、派遣すべきかどうかの定量的な指標はなにもなく、登山計画審査会のさじ加減でどうとでもできる制度設計になっています。

県教委や高体連登山専門部の身内である登山計画審査会のさじ加減ですべて決定されるのですから「登山アドバイザーの派遣制度」は数年も経たず、もしくは制度が立ち上がる前から形骸化してしまうことは容易に想像できます。中途半端な知識しかもたないただのアマチュア登山家である山岳部の顧問教員が引き続き登山を引率する体制となるのは事故前と変わることはないのでしょう。

実質的に制度を形骸化しようとするこの動きには、山岳ガイドのような専門家が高校の部活動に入り込んでくることを極力少なくし、顧問教員や高体連の既得権益を守ろうとする意志を感じずにはいられません。


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