遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

とちぎモデル

「とちぎモデル」の提案

そこで私は、高校生が安全に登山活動を実施できる「とちぎモデル」の構築を提案いたします。
そしてこの「高校生の登山のあり方検討会」を「とちぎモデル」はどうあるべきか、どのように具現化していくかを議論する場とすることを提案し、委員の皆様に賛同いただきたいと考えています。

私が考える「とちぎモデル」とは、「教員に頼らない制度設計」「専門団体の資格を持った引率者による登山」「登山計画の厳格な審査」「県が主体・主催者となった登山」「安全を管理する員会の設立と継続的な改善の制度化」といった施策の総称です。

これらの施策が一気に実現し、完成するとは思っていません。ステップを踏み、理想の形に一歩ずつ近づけていけたらと思っています。そしていくつかのステップを踏み、一定の形に達したものを「とちぎモデル」と呼び、その内容を全国に発信出来たらと考えています。

そして重要なことですが、安全に終わりはありません。これをもって完成とするのではなく、改善を継続的に実施していくための制度を作り、絶え間ない改善をつづけていくべきです。

「とちぎモデル」構築までのステップ

「とちぎモデル」構築までにはいくつかのステップを踏む必要があります。

私は、そのステップを以下のように考えます。
それぞれのステップについての概略を以下で説明いたします。

STEP-0 現行制度でできることを実施

STEP-1 登山活動及び引率にかかわる事項の制度化

STEP-2 登山活動の主体変更

STEP-3 山岳部の地域クラブ化

STEP-0 現行制度でできることを実施

まず、STEP-0として、現行制度でできる登山計画審査会、登山アドバイザー派遣制度などを利用し、できるだけの安全対策をすぐに実施すべきだと考えます。

考えつく施策は以下のようなものです。

  • 登山計画の全件審査必須化
  • 登山活動への登山アドバイザーの帯同必須化
  • 登山計画と登山実施結果のホームページ上での公開
  • インターハイ、関東大会出場校の公募・抽選制の導入

すでに遺族と県教委さんとの間で話し合いがもたれ、実施していただいている施策もあります。
また、登山アドバイザーの帯同必須化については、この検討会の場において来年度の登山活動からの実施が宣言されています。

登山アドバイザーの恣意的な運用に対する歯止めや資格の明確化などの課題がありますが、着実にこのステップは進んでいます。

大会出場校の公募・抽選制の導入という施策は、高校生の登山活動の競技性をなくすためのものであり、やり方については今後議論すべきかと思います。

STEP-1 登山活動及び引率にかかわる事項の制度化

次にSTEP-1として「登山活動及び引率にかかわる事項の制度化」を挙げています。

これが何かと申しますと、登山アドバイザーの制度を発展させ、登山活動を指導・引率する登山コーチを制度化すべきであるということです。

専門団体の資格に基づいて登山を引率する要件を明確化し、現状のあいまいな登山アドバイザーの要件を必要な専門性に紐づいたものとして新たな登山コーチの要件として明確化すべきです。
そして、登山コーチと顧問教員で役割を分担し、顧問教員の役割は山岳部の活動の教育的見地からのマネジメントに限定いたします。

そして、登山コーチの派遣については、県が主体となって制度化し、その点についても顧問教員の負担を軽減すべきです。

また、登山コーチの制度化とは異なる話ですが、登山活動にかかわる許容リスクを設定し、高校生の登山としてふさわしい活動内容と範囲を明確化すべきです。現状、この点が明確になっていないため、安全性にかかわる事項が教育委員会や登山計画審査会によって恣意的に決定されているように見受けられます。高校生の登山としてふさわしい活動内容と範囲を定めた後、その基準に基づいて安全性にかかわる事項を議論すべきであると考えます。

そして、活動内容と範囲に基づいて登山教育プログラムの再整備と実践、ヒヤリハットの報告だけではなくインシデントの報告を義務付け、安全対策に活用するなどの施策も必要だと考えます。

登山の引率要件について、このようにあるべきだという例を示します。

登山の活動内容と、その活動内容に見合った専門団体の資格を対応させ、その資格をもった登山コーチの帯同し、登山を引率するよう義務付けるべきです。
専門団体としては、日本山岳・スポーツクライミング協会や日本山岳ガイド協会などが挙げられます。

山岳部顧問経験5年などといったあいまいな要件ではなく、このような明確な資格で引率要件を定義すべきです。

また、高校生の登山はどこまでを許容すべきか、リスクマネジメントの見地から許容リスクを決定し、活動内容と範囲を明確化すべきであると考えます。

上記の表は、リスクマネジメントでよくある表です。
横軸は事故の起きる可能性、縦軸はケガの大きさ・事故の重大性を示しています。
事故の重大性と起きる可能性からマトリックスをつくり、どこまでの事象であれば高校登山で許容すべきか決定すべきです。そして計画している登山がその許容範囲に入るのかどうか判定し、その計画の可否を決定すべきです。許容範囲に入らないのであれば実施しない、もしくは許容範囲に入るために対策を行い、許容範囲に入れたことを確認して実施可能とすべきです。

現状は、登山計画審査会の腹積もりひとつで登山計画の可否が決定されており、その決定は恣意的な判断が見られるずさんなものであると感じています。

STEP-2 登山活動の主体変更

STEP-2として、活動主体を変更し、登山や登山講習を県又は県教委が主催すべきであると考えます。

事故が起きても何ら責任をとることもなかった高体連登山専門部や学校が、危険性をはらんだ登山を主催すべきではありません。

県は現状でも自然環境課が登山教室を実施していたりします。おなじような形式で、登山コーチを派遣し、各学校の部活動がそこに参加する形にすれば主催者、主体を変更することは十分可能なのではないかと思います。

STEP-3 山岳部の地域クラブ化

STEP-2で県または県教委が登山活動を主催する形としたら、もう部活動の枠で登山を実施する必然性は薄れてきます。

STEP-3では部活動ではなく、各個人で県または県教委が参加する登山活動に参加し、学校主体ではない地域クラブ化を目指すべきだと考えます。どうしても学校の関与が必要ということであれば、教員がしっかりとコーチの資格をとって参加することも可能であるとします。

その際問題となるのは、学校の活動ではないので、スポーツ振興センターの災害共済制度を使用することができず、万一の事故やケガの補償が受けられない点です。
これは、県がスポーツ振興センターの共済制度に代わる保険制度を創設することで問題点を解消することが可能であると考えます。

「とちぎモデル」のその先

私が考える「とちぎモデル」は以上のようなものです。

このようにステップを踏んで「とちぎモデル」を作り上げられたらという思いです。
そして、これらのステップを踏むことができたとしても完成ではありません。

安全に完成はありません。

この「高校生の登山のあり方検討会」を発展させ、高校生の登山にかかわる改善を継続的に実施、監視しする制度を整備し、永続的に改善を実施することが重要だと考えます。


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