2023年6月28日、那須雪崩事故の民事裁判の判決が出ました。
判決の要旨は以下のとおり。
・栃木県と栃木県高体連へ賠償命令
・県が主張した亡くなった教員への過失相殺は認めず
・教諭3人への請求は棄却
・遺族が求めた重過失の認定については言及なし
判決から2日後の2023年6月30日、県側より控訴しないとの方針が示されました。
2023年7月13日、双方控訴しないまま控訴期間である2週間が過ぎ、判決が確定しました。
民事調停の申し立てから判決までのこの3年間の民事調停と民事裁判を巡るタイムラインを載せておきます。刑事裁判についてはこちらでご確認ください。
- 2017.3.27那須雪崩事故発生栃木県高校体育連盟主催の春山安全登山講習会の雪上歩行訓練中に雪崩に襲われ、8人が亡くなり、40人が重軽傷者の被害の大事故が発生。
この講習会は那須町の町営スキー場周辺で実施されており、栃木県内7つの高校の山岳部が参加していた。民事調停
- 2020.3.26遺族が調停を申し立て遺族らは栃木県(県教委)、栃木県高校体育連盟、講習会責任者ら教諭3人、事故当時の大田原高校校長に対する民事調停を宇都宮簡易裁判所に申し立てた。事故の責任を認めて謝罪することなどを求めた。
報道遺族
私たちは遺族は、訴訟という対立による決着ではなく、話し合いによってこの事故を終結させることを望み、民事調停という手段を選択しました。
- 2020.7.27第1回民事調停謝罪や賠償を求め遺族が心情を陳述した。
報道初回から調停の場に3教諭が現れないという予想外の事態となりました。代理人を立てることもなく、裁判所の呼び出しを無視するという対応を取られました。
話し合いによる解決を望む私たち遺族の気持ちを踏みにじる行為でした。
- 2020.11.2第2回民事調停
- 2021.1.25第3回民事調停遺族は県側などに、真摯に謝罪することなどを要望した。
- 2021.3.1第4回民事調停遺族側から事故が起きた春山安全登山講習会の問題点を指摘する新たな意見書を提出。
意見書は雪崩事故防止研究会会員の澤柿教伸法政大准教授が執筆した。 - 2021.6.21第5回民事調停県側から事故の賠償責任を認める答弁書が初めて提出された。
県側から賠償責任を認める答弁書が提出されましたが、その内容は「栃木県に賠償責任があることは積極的に争わない」とするもので、過失を認める内容ではありませんでした。
- 2021.9.13第6回民事調停遺族側から重大な過失を踏まえた上で、県が支払う損害賠償金を3教諭に負担させる「求償権」の行使を内容とした和解案を提示した。
遺族
調停は回数を重ねましたが、事故の当事者である3教諭がこの調停を無視する対応を取り続け、話し合いになりませんでした。
3教諭が出席しない中、それでも、県や高体連とだけでも和解に至るように遺族側から和解案を提示しました。2021.11.22第7回民事調停県側は、「職務執行体制が悪かった。3教諭だけの責任ではない」と主張し、遺族側が示した和解案に応じない姿勢を見せた。遺族
遺族側から提案した和解案は拒否されました。
県側からそれに代わる和解案の提示もなく、調停はとん挫しました。2022.1.24第8回民事調停 調停不成立調停員が遺族側の提案した和解案に対する県側の回答を再度求めたが、県側は「結論は変わらない」と応じなかった。
解決の目途が立たないとして調停は不成立に終わった。
報道遺族
結局、3教諭は初回から最後まで調停に出席することなく、裁判所の呼び出しに応じることなく、この調停を無視し続けました。
遺族
出席すらしなかった3教諭は言うに及ばず、調停を通じて県や高体連にも歩み寄りや解決への提案など前向きな対応は全くありませんでした。
最初から私たちと話し合う気は一切なかったのでしょう。徒労感しかありませんでした。民事訴訟
2022.2.25遺族、教諭と県など提訴県と県高校体育連盟、講習会の責任者だった3教諭に対し、損害賠償を求める訴訟を宇都宮地方裁判所に起こした。
3教諭が雪崩発生を予見できたのに、安全性を検討せず予定になかった雪上訓練を実施したとして、「重大な過失による遭難で、明らかな人災」と主張した。
報道2022.2.102022.4.27民事裁判 第1回口頭弁論遺族側代理人
現場は急斜面で新たな積雪があり、登山経験が豊富な3人が、前日から出されていた雪崩注意報など必要な情報収集を行なえば、雪崩発生の一般的条件を満たしていると容易にわかったと主張。被告らは地形や当時の気象条件などについて情報収集をせず、生徒らの安全確保を怠ったと指摘した。
3教諭代理人
公務員の職務で発生した損害の賠償は国や自治体が負うとする国家賠償法を理由として賠償責任を否定。訴訟の被告として不適格だとして訴えの却下を主張し、訴えの内容自体にも棄却を求める答弁書を提出。
県側代理人
請求棄却を求める答弁書を提出した一方、国家賠償法に基づく賠償責任は認めた。2022.6.22民事裁判 第2回口頭弁論3教諭代理人
雪崩発生は予見できなかったとする準備書面を提出した。
事故発生時の県高体連登山専門部委員長については、講習会の主催者は県高体連で委員長が責任者ではなかったとも主張した。
県側代理人
生徒への安全配慮義務違反を認めた一方、死亡した教員について「自身の生命を守るための判断ができた」とし、賠償額の認定で過失相殺の適用を訴えた。
報道遺族
県側から初めて「生徒に対する安全配慮義務違反(過失)があったと考え、..」と過失を認める内容の答弁書が提出されました。大きな成果です。
ただこれは事故の反省から出た言葉ではなく、この裁判に先立って2月に3教諭が在宅起訴されたことを受けての対応と考えられます。遺族
一方で3教諭からは事故の責任を認めない旨の答弁書が提出されました。この事故に対する3教諭の見解が公の場で語られたのはこれが初めてのことでした。
予想されたことではありましたが、責任逃れの幼稚な言い訳が並び、怒りと失望感でいっぱいになりました。2022.9.21民事裁判 第3回口頭弁論遺族側代理人
死亡した教員の損害に対する過失相殺の適用を改めて否定した。
講習会の不十分な安全対策や死亡した教員の登山経験の浅さなどを挙げ、「雪崩の危険を認識できたはずはなく、注意を払っても雪崩の回避は不可能だった」と過失相殺が適用されないことを主張。2022.11.162023.3.8民事裁判 第5回口頭弁論遺族側の本人尋問などが行われ結審した。3教諭は民事訴訟で一度も出廷することはなかった。
遺族側代理人
遺族側5遺族6人の当事者尋問を実施。
「自然災害ではなく人災」「3教諭に事故と正面から向き合って欲しい」など、亡き息子への思いを語った。
報道2023.6.28民事裁判 判決判決要旨
・栃木県と栃木県高体連へ賠償命令
・県が主張した亡くなった教員への過失相殺は認めず
・教諭3人への請求は棄却
・遺族が求めた重過失の認定については言及なし判決全文 (’23/7/22追加)
判決文に「この事故は人災である」との明記はありませんでした。
しかし、判決文の中で3講師の過失の重大性を指摘しており、この事故は単なる自然災害ではなく、3教諭の過失による人災であると公にしていただけたと受け取ることができました。遺族
判決では重過失には触れられていないなど100%満足できる内容ではありませんでした。
3教諭の責任については進行中の刑事裁判で明らかになることを期待し、刑事裁判の結論が出されるまで引き続き注視していきたいと思います。2023.6.302023.7.52023.7.13
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