遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

「春山安全登山講習会」とは一体?

 「春山安全登山講習会」、息子らを死に追いやった講習会の名称です。この名称を聞くと未だに血が沸き立つくらいの怒りとどうしようもない悲しみが押し寄せてきます。

 怒りの感情が湧くのはしょうがないのですが、この「春山安全講習会」という名称が遺族の感情をさらに逆なでします。

 当日は「春山」ではなく30cm以上の降雪のあった直後の明らかに「冬山」の状態でしたし、「安全」を軽視し天候や斜面の状態を確認もせずに迂闊な行動をし、全く「講習会」の体を成していないこの集まりに「春山安全登山講習会」という名がつけられていることが、タチの悪い冗談のように聞こえます。死んだ息子らと遺族をバカにしているように感じます。

 もしこの講習会が無事に終わっていたとしても生徒らは安全を身につけられたのでしょうか?むしろ安全を軽視する迂闊な登山家に育ってしまったのではないでしょうか。
 また、この講習会はこの年だけではなく、過去数十年に渡って栃木県下で迂闊な登山家を育て続けてしまっていたのではないでしょうか。

「春山安全登山講習会」とは一体?

 もし、雪崩事故が発生していなかったとしたら、この講習を受けた生徒は何を学ぶことができたのでしょうか。登山の安全を学べたのでしょうか?この講習でベテランの教諭たちの行動を見て、大人になって同じような状況になった時どのように考えたでしょうか?次のような間違った考えを持つのではないでしょうか。

「講習では当日に30cm以上の多量の降雪があっても中止にならず、講習を続けていた。登山では当日や前日に降雪があった日は行動を控えるとされているが、実際は多量の降雪があっても登山活動をして問題ないようだ。」
「講習では積雪のある立木もないような急斜面にも平気で立ち入っていた。そのような斜面は雪崩の危険があるとされているが、ベテランの先生が立ち入ったのだから実際はたいしたことはないのだろう。」
「講習では多人数でラッセルしながら急斜面に立ち入った。それでも雪崩が起きなかったのだから人間の行動で雪崩が誘発されるなんてことはないのだろう。」

 「春山安全登山講習会」は「安全」と銘打っていますが、調べるほどに講習会の参加者に間違ったメッセージを送っていることに気づかされます。もし今回事故に遭わなかったとしても、参加者に講習会の趣旨に反した知識を与えてしまっていたことでしょう。いったいどのあたりが「安全」講習会なのでしょうか?
 数十年の歴史あるこの講習会は、⾧年にわたってこんなバカな判断をする登山家を育成してしまっていたのではないでしょうか。もしかしたらこの講習会で講師と呼ばれた教諭たちも、この講習会によって育成されてしまったバカな登山家のひとりだったのではないでしょうか。

当日の行動

 では、当日はどのように行動すべきだったのでしょうか?
 本来の安全講習の目的に照らすと、「登山活動の当日や前日にこのような大雪があった場合は、雪崩発生の危険が高くなるので登山活動は控えるものだ。」と言って講習自体を中止すべきだったと考えます。
 また、雪崩に遭遇したあたりの斜面を指さし、「あのような立木の少ない急斜面は雪崩が発生しやすい地形なので、積雪期は決して立ち入らないこと。」と伝えれば学習効果は高かったことでしょう。
 どうしても何かしら訓練する必要があったのであれば、「積雪期に雪崩の危険のある斜面を横切る必要がどうしてもある場合は、ひとりずつ、距離をとって静かに歩くものだ」ということを教え、ゲレンデのロッジ近辺で一人ずつ順番に距離をとって静かに歩行する訓練でもすればよかったのではないでしょうか。

今までの対応と今後の対応について

 今回の雪崩事故を総括することもなく有耶無耶のうちに登山活動を再開し、反省と十分な再発防止策を提示しない栃木県教育員会、高体連と登山専門部を見て県下の先生方はこう学習するのではないでしょうか。

「8人が死んだぐらいで真面目に対応する必要はない。適当な対応でいいのだ。教職員は何百人もの生徒を相手にして忙しいのだから。」
「再発防止とかちゃんとやると後が面倒になる。黙って時間を稼いで年月が経つとだれも文句を言わなくなる。余計なことはせずにずっと黙っていればいいのだ。」
「今回の雪崩事故は大雪が降ったために発生した運の悪い事故だった。これは自然災害なんだ。対策も必要ないし、自分には関係ない。」

 この先も先生方の部活動に対する安全軽視の体質は脈々と受け継がれていくように感じられます。
 今回発生した雪崩事故が、再度その体質に埋もれてしまい、小手先の形だけの反省と防止策だけでなにも教訓を残さない結果になってしまうのではないか、そうなってしまうことを憂慮しています。先生方の安全を軽視するその体質は、雪崩よりも深く、その下に埋もれている良識を掘り起こすことは困難であるのですから。

 このような体質を根本から改善しない限り、5年10年先に学校管理下で再度重大事故が発生するのは必然だと思います。


コメント

  1. 英治 より:

    おっしゃる通りだと思います。間違った認識を持ち、間違った自信をつけて50年近く
    訓練を続けた結果、大惨事を招いてしまった,という事でしょう。間違った訓練を重ねて現場で鍛えられた登山指導者がこの事故を招いてしまったんだと思います。
     ずっと前に、学校関係者(教員)は、責任問題を恐れて慎重になるものだという投稿がありました。そんな考えも持たなくなるほど麻痺していたのでしょうか。そんな教育者たちが、処分の期間が過ぎればもとの生活に戻るなんてあまりにも理不尽です。

  2. 元、栃木県立高校教員 より:

    その通りです。雪山講習会でした。実質的に冬山です。文部科学省が高校生の冬山登山自粛の方針を全国各都道府県教育委員会に通達したため、雪山講習会が出来なくなる事態になり、栃木県高体連登山専門部の判断で、名称を春山と称して強行実施していました。理由は、冬山と称すれば文科省通達無視、3月は春と言えるので、春山と称すれば文科省通達の冬山ではないので大丈夫。と、言う訳で名称を春としてやっていました。これには、県内からも危険と判断した学校が多数あり、年々参加校は減少していました。私が勤務した学校では、校長が危険と判断して、平成24年度から不参加でした。それでも強行した理由は、全国大会では栃木県代表校(ほぼ例年、大田原)は1位ではありません。上には上があります。雪山の登山経験くらいないとトップにはなれません。強くなるために実施した行事です。そこで悲劇が起こってしまった。冬山登山再開の情報を聞き、雪山講習会を再開するなら、参加生徒の保護者会を開いて、保護者許可制、ビーコン所持必須、外部インストラクターの要請は不可欠と思います。あと、生徒の判断で危険と思えば安全なテント周辺のみの参加で良く、上に登る事は強制しないルールを明文化して、現地の気象条件などを加味して任意参加で登山して下さい。雪山は冬山です。名称も冬山(雪山)登山講習会として。やるなら文科省通達無視強行で栃木県の全責任にて。健闘を祈ります。

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