遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

残雪、雪渓のある山への登山

2020年2月21日、第6回目の令和元(2019)年度の登山計画審査会が開催されました。
栃木県の登山部の活動指針を示した登山計画ガイドラインの内容を夏場に残雪のある場所での活動も認めるものに改める最終案が登山計画審査会に示され、了承されたとのことです。

前回の記事で登山アドバイザー原則帯同の例外を恣意的に決定され、制度が有名無実化してしまう懸念を表明いたしました。
この残雪のある山への登山を認める決定も、恣意的に決定されたように感じます。

何も根拠も示されず、議論もないまま活動範囲の拡大を決定されてしまいました。
今後、なし崩し的に活動範囲を拡大されてしまうことを懸念いたします。

残雪、雪渓のある山への登山

残雪および雪渓を含むルートへの登山については、登山計画ガイドラインで以下のように定められました。
以前より、「雪山登山は禁止となったが、残雪や雪渓への登山の取扱いはどうなるのか。残雪があった場合は引き返すべきなのか。」といった山岳部顧問からの問い合わせがあり、その問い合わせに応える形で定められたのだと思われます。

残雪や雪渓と一言で言ってもいろいろあります。どこまでが許されるのでしょうか?

「夏山における残雪及び雪渓については、」「傾斜が緩やかで」「転滑落等の恐れがない場合には」山行を認めるとあります。

「夏山」とはなんでしょうか?「傾斜が緩やか」とはどのような傾斜なのでしょうか?
「転滑落等の恐れがない場合」とはどのような場合なのでしょうか?

相変わらずあいまいでどうとでも取れる文言で定義され、「その都度登山計画審査会における審査を経て決定する」として審査会に大きな権限を持たせ、そのさじ加減にまかせています。

このままでは明らかな雪山であっても登山を実施し、「あれは雪山ではなく、残雪や雪渓だった。雪山登山はしていない。」などと言って言い訳をする顧問教員が出てくるのではないでしょうか?いつぞやの「冬山ではなく秋山」と新聞報道であったように、抜け道となってしまうことを懸念いたします。

決め方の問題

私は登山の専門家でもありませんので、残雪や雪渓のある山への登山の安全性についてはなにもわかりません。今回決定された内容も危険性のない登山とされているのかもしれません。夏山への登山で、わずかばかり残っている雪を横断する場面についてとやかく言うつもりもありません。

ただその決め方があまりに恣意的であることが問題だと考えます。

現場の教員や登山を推進したい審査会の委員の都合だけで決めているようにしか思えません。
審査会の委員や栃木県教育委員会の適当な感覚で決めているように思えます。

根拠のない決定

那須雪崩事故があった「春山安全登山講習会」は、残雪が残る春山や雪渓の通過を伴う夏山登山に必要な技術を身に着けるための講習会であったはずです。

高体連登山専門部から事故発生前に各学校に配布された「春山安全登山講習会」の開催通知には次のような文言があります。

残雪のある山や、雪渓の通過を伴う山への登山を実施する場合にはこの講習を受講するようにと書いてあります。この講習を受講し、雪上の歩行技術を習得することによって、残雪のある山や、雪渓の通過を伴う山を登山できるという制度設計だったのではないでしょうか?

那須雪崩事故があってからは「春山安全登山講習会」に相当する講習会は実施されておらず、残雪のある山や、雪渓の通過を伴う山への登山を実施できるとする根拠はありません。

「少しくらい雪が残っていても危険は小さいので、まあいいんじゃないか」、そんなノリで残雪や雪渓のある山への登山の実施について決定したとしか思えません。何事もそんな感覚で決められているように思えます。

そうだとすると、那須雪崩事故の遭った「春山安全登山講習会」とは一体何だったのでしょうか?

この講習会を受講しなくても残雪のある山や、雪渓の通過を伴う山への登山が実施できるような、無くてもよいような講習会だったのでしょうか?そんなどうでもよい講習会に参加して息子は命を落としたのでしょうか?

「参加しない訳にはいかない」、息子はそう言ってこの講習会に参加しました。おそらく参加通知にあったように、残雪や雪渓のある山に登る予定のある大田原高校生は必ず参加しなければいけないといった主旨のことを学校から言われたのでしょう。

どのような根拠の下で残雪のある山や、雪渓の通過を伴う山への登山を実施できるとしたのか、明確にしていただきたいと願います。明確にできないのであれば、このような決定を下すべきではありません。

実施するために何をすべきか

事故後からずっと感じていることですが、栃木県教育委員会も高体連登山専門部も登山計画審査会も、何かを決定する時に「できるか、できないか」だけを安直に議論しているように感じます。現状を何も変えないことを前提に、なし崩し的にできることを増やそうと腐心しているだけなのではないでしょうか。

「できるか、できないか」だけではなく、「できるようにするためには何をすべきか」を議論していただきたいと願います。実施できるようにするために必要な措置は何かを議論し、実施するための措置を適切に実施した上で実施の決定を下して頂くことを望みます。

その上で、登山の知識がない中で語りますが、残雪や雪渓のある山への登山は、現状では実施すべきではないと考えます。残雪が残る春山や雪渓の通過を伴う夏山登山に必要な技術を身に着けるための講習会が開催されていないのですから。

もしかして「いやいや、雪渓を渡るぐらいであれば引率者がその場で指導するぐらいで危険なことはないんですよ」ということであれば、引率者にそういった知識や経験があるかどうかで判断すればよいのかもしれません。その場合は登山実施の判断に当たって、引率者にそれに見合った資格の取得を求めるようガイドラインに明記すべきです。

「夏山の雪渓の通過ぐらいであれば講習がなくても安全に登山できる」ということであるならば、どのくらいの雪渓まで許容できるのか、斜度や残雪の程度を写真等を駆使して指針を示すべきです。

いい加減にしていただきたい

以前にも、同様の判断がありました。
那須雪崩事故は標高1,500m以下の山域で発生したにも関わらず事故後も「1,500m以下の低山への登山は、登山計画の審査なしで登山可能」との判断がなされていました

那須雪崩事故について何を見て、何を反省しているのか疑問に感じる判断が繰り返されています。

現状を何も変えないまま、事故をなかったことにするような、なし崩し的な判断はいい加減止めていただきたい。


コメント

  1. エイジ より:

    *高校の山岳部について・・・危険が伴う登山は学校の部活動に相応しくないと思います。文芸部ならば国語の教員が、科学(化学)部なら理科の教員が顧問になるのは納得できます。山岳部は、例え体育科の教員でも適さないでしょう。負担が重すぎます。学校以外のクラブチームや同好会に入って、それこそ経験者のもとで活動するのが良いと思います。

    *登山アドバイザーの帯同について・・・生徒の安全確保を第一に考えれば、例外なく帯同するべきと思います。 登山アドバイザーを帯同不要という事は、部外者(他人)に口出しされたくない、という事なんでしょうか?
     危険はない、安全だと思える場合でも起きるのが『事故』というものです。例えば海岸で、水深が30㎝でも溺れる人はいると聞いた事があります。万が一の場合を考えれば、山岳アドバイザーの帯同は必要だと思います。

    *登山計画審査会について・・・『夏山における・・・傾斜が緩やかで転滑落等の恐れがない場合・・・山行を認める。』とありますが街中の平坦地を歩くのとは違います。具体的に明確な基準を作らなければなりません。

    *「春山安全登山講習会」開催通知・・・「・・・経験の浅い顧問の先生については・・・」とあったようですが、『経験の浅い』者を顧問にしてはいけないんじゃないでしょうか?高校(学校)の部活動として、山岳部は相応しくないでしょうね。

  2. 森 ひろし より:

    原則、登山アドバイザー帯同は一歩前進なのかも知れません。ただ、アドバイザー帯同が必要な場合とそうでない場合の境目を誰がどのように決めるのでしょうか?
    危険とそれ程でもない境目など、同じ山であっても山の天気は刻々変化するでしょうし、生徒の経験もまちまちなので線引きなど、誰にもできないのではないかと思います。
    私は、登山経験は殆どありませんが、若い時にそれ程高くない山をハイキングのつもりで登ったことがありました。
    午前中は天気が良かったのに、午後になると雨が降り出し、また雷が直ぐ目の前にまでまとわりつくようにして頻繁に発生して怖い思いをしたことがありました。素人ばかりでの登山でしたので、このようなとき、どう対応したら良いのかわからずに困った思いをしました。幸い無事に何とか登頂と下山ができましたが、普段は安全そうでも、危険は隣り合わせで、どうしても経験者の判断が必要になる場面というのは、確率的にゼロではない以上、帯同は原則などと曖昧にせずに、必ず帯同しなければならないとすべきだと思います。
    結局、県は原則として、できるだけアドバイザーを帯同しないようにして予算を割きたくないのが、本音ではないかと推察致します。ボランティアというわけにはいかないでしょうから、県はアドバイザーの為の予算はどの程度組んでいるのでしょうか?
    中途半端な形(人、物、金を節約する、結局は金を使いたくない)で部活動を継続するのなら、やはり学校教育から切り離して地域でのサークルのような活動に切り替えるべきかと思います。

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