遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

「冬山でなく秋山」と釈明... 一体なにを言っているのでしょうか?

那須雪崩事故で、事故の検証委員会の委員を務められた長野県立高等学校の山岳部顧問教員が、登山計画の事前審査を受けずに同部の生徒を雪上の登山活動へ引率したとして、長野県教育委員会から口頭で注意を受けていたと報道がありました。

長野県の「高校生の冬山・春山登山における安全確保指針」によると「冬から春にかけて主に雪上で実施する登山活動」を行う場合は登山計画書を提出し事前審査が求められています。しかし、この顧問教員は計画書を提出せず、自校の校長の承認のみで登山を行ったとのことです。

新聞社の取材に対してこの顧問教員は「計画は冬山ではなく秋山登山」として、審査は不要と捉えていたと釈明されたそうです。

当日の状況

問題となる登山を実施したとされるのは、2018年11月23、24日の両日、北アルプスの燕岳(2763m)です。報道によると、登山道の一部に雪がある中、山頂に登ったり、幕営をしたりしたとのことです。

当日の山頂付近の様子はどうだったのでしょうか。積雪はあったのでしょうか。燕岳山頂近くにある山荘のブログで当日の様子が確認できます。このブログによると当日朝は気温がマイナス12℃まで下がり、前日の午後から本格的に振り出した雪によってこの山荘あたりで20cmの積雪となっていたとのことです。

また、ブログの文章中に「11月としては決して多くない積雪量」との記述もあり、予想外の積雪だったという訳でもなさそうです。

とても「秋山登山だった」と釈明できる状態であったとは思えません。

11月23日の燕岳山頂付近の様子(燕岳山頂付近の山荘のスタッフブログより)

顧問教員は規則を守るつもりがない

この顧問教員は、那須雪崩事故の検証委員の一員であり、全国高体連登山専門部の常任委員などの要職を務め、責任ある立場で全国の山岳部顧問教員のお手本となるべき方です。そのような方が規則を軽んじることはあってはならないことのはずです。しかし、積雪が20cmもある状況を「秋山」と釈明する態度からは、今後も規則を軽んじ、守るつもりがない様子をうかがうことができます。

私がこの報道の事実を聞いた際に驚きはありませんでした。「ああ、やっぱり規則を守る気はないんだ。」と、呆れた感情が含まれた感想しか出てきませんでした。教員が安全に対する規則を軽んじ、守るつもりもないことは那須雪崩事故に至るまでの経緯とその後の対応でずっと感じていることでした。そしてきっとそれは責任ある立場の教員であっても変わることはないであろうとも感じていました。

那須雪崩事故も「冬山登山の事故防止について」という通知を守らずに発生したものですし、再発防止策として制度設計がないままガイドラインだとか規則をつくっても誰も守ることなくすぐに形骸化してしまい実効性がないと訴えてきました

「教員が安全に対する規則を軽んじ、守るつもりもない」という実態をこの報道によって世間に知らしめていただけることをありがたく思いました。

「秋山登山だった」と釈明

新聞社の取材に対してこの顧問教員は「計画は冬山ではなく秋山登山」として、審査は不要と捉えていたと釈明されたそうです。

呆れてしまいます。

規則を守らなかっただけではなく、その事実に対してこんな釈明をされる方が那須雪崩事故の検証委員を務め、事故を検証し、再発防止の提言までされていたことに嫌悪感すら感じます。

那須雪崩事故を引き起こした「春山安全登山講習会」は、登山専門部によって「春山」で実施していると言い張られ、それを逃げ道にして安全確認もなされず長年漫然と場当たり的に実施されてきました。このことが那須雪崩事故のような大事故が発生した大きな要因であったはずです。

那須雪崩事故検証委員会ではその問題点を以下のように指摘しています。

このような指摘がなされているにもかかわらず、那須雪崩事故の検証委員であった顧問教員が「秋山」という逃げ道で釈明することは、事故を軽んじ、自らが事故を風化させてしまっているということに他ならないと感じます。「春山」という逃げ道をつくり、那須雪崩事故に至った栃木県の登山専門部と同じ轍を踏んでいます。

世間の常識とかけ離れている

事故に至る経緯とその後の対応から、登山をしている教員の常識は世間の常識からかけ離れてしまっているといつも感じています。

たとえ事故の検証委員の一員であっても、所詮死んでしまった私たちの息子は「人の子」であって、登山活動をするための障壁としか感じなかったのでしょうか。

顧問教員は山の魅力に取りつかれ、さらに部活動という制度と相まって安全と人命を軽視してしまう風潮が醸成され、生徒教員の身体・命を危険にさらしてしまっているように思えます。

仲間内の審査は実行性がない

また、聞くところによると、登山計画を審査する長野県の登山計画審査会は高体連登山専門部のメンバーのみで構成されているとのことらしいです。

どうせ自分たちが審査するんだから審査なんてしなくていいだろう、というこの顧問教員の驕りがあっただろうということは容易に想像できます。そういった態度からも事故を軽視していることが見て取れ、引いては私たちの息子の命を軽視し、遺族をバカにしているようにすら感じます。

登山計画審査会のメンバーについてはスポーツ庁の「高校生等の冬山・春山登山の事故防止のための有識者会議」で以下のような意見が出ており、仲間内での審査を諫める意見が出ています。

まさにこの意見のとおりで、長野県の登山計画審査会は仲間同士で審査がなされるだけの実効性のない慣れ合いになってしまっていることが今回の件から浮き彫りになったのではないでしょうか。

そういった点では栃木県の登山計画審査会も同類です。
栃木県の登山審査会は県山岳連盟の会長がメンバーとなり、審査会の委員長となっており形式上外部有識者が取り仕切っていることになっています。しかし、その山岳連盟の会長は元教員で、専門委員長を務めたこともある登山専門部のOBです。仲間同士で審査がなされているという点では長野県の登山計画審査会と同類だと思います。この山岳連盟会長が那須雪崩事故を引き起こした漫然と場当たり的な登山専門部の基礎を築いた一員であったと考えるとより悪質にも思えます。

山岳の世界はこんなにも閉鎖的であり、気を抜くとすぐに仲間内の形式だけの審査で安全軽視の登山になってしまうような気がしてなりません。

定量的な指針を示し、指針を守らせるための制度設計が必要

このような事態になることをずっと憂いていました。

「冬山」だ、「積雪期」だ、「低山」だといったあいまいでどうとでも取れる指標ではなく、定量的で誰にでもわかる指標をつくり、それを守らせるための制度設計が必要です。

現状のままでは今後も顧問教員が規則を守らずに同様の事態に陥ってしまうのは目に見えています。ルールを守らないことによる罰則も制度設計もない現状であれば必然のことです。

だからこそ、冬季の登山に懸念を表明したり、教員のみのでなく山岳ガイドなどのプロの帯同を必須にすべきだと意見させていただいているのです。

規則を守るつもりのない教員に子供を預けて安全が担保できるわけがありません。いくら規則を定めても、その規則が形骸化し、積雪のある山に登ったり、安全なルートを外れて危険な箇所に足を踏み入れてしまうことは目に見えています。今回の長野県立高等学校の山岳部顧問教員の行動からも明らかです。

規則を守らせるための仕組みづくり、制度設計が必要だと考えています。
それには処罰規定を見直して生徒の安全にしっかりと責任をもってもらうしかないと思っています。

もう止めてしまったらいかがですか

那須雪崩事故の検証委員を務め、模範となるべき顧問教員がルールを逸脱した事実は重大です。検証委員自らが事故を風化させてしまっている所業だと感じます。

那須雪崩事故のような重大事故を引き起こし、高校山岳部の顧問は緊張感を持って信頼回復に努めるべきであるはずなのにこの体たらくです。

顧問教員が規則を軽視し、規則を破っても「秋山登山だった」などと釈明して生徒の命を危険に晒す行為に疑問を持つことがないのであれば、部活動としての登山はもう止めてしまった方がよろしいのではないでしょうか。

現状のように制度設計もないままであれば、規則を軽視する顧問教員によって再び大事故が引き起こされてしまうことは必然です。安全に関する規則を守るつもりもなく、生徒の命に責任をもたない教員に子どもを預けることに対し、保護者の方は疑問を持つべきかと思います。


コメント

  1. AAA より:

    「冬山」等の単語については何度も書いてきたので、もう指摘しませんと以前に書きましたが、案の定こういうことがありましたので、繰り返しになる部分もありますが、再度書かせていただきます。

    まず、「秋山」「冬山」「春山」と区別するのに、気温や積雪のあるなしは関係ありません。
    区別するのは単純に時期です。当然それは明確に区切れるものではありませんし、地域によっても変わってきます。だから何かの基準にはなり得ません。

    しかしながら11月下旬のアルプスは紛れもなく「冬山」です。雪の有無や気温が高低は関係ありません。単純にそういう時期です。異論は認めません。
    引率教諭が本気で「秋山」という認識でいたのなら、指導者というよりは一般登山者としての常識が欠如していると言わざるを得ません。

    一方で、那須雪崩事故があった3月下旬は時期的にどちらかと言えば「冬山」ではなく「春山」だと思います。

    何かの基準のために雪山を「秋山」「冬山」「春山」と分けるのがそもそも間違いです。
    一般的に「秋山」とよばれる10月上旬でもアルプスではいつ雪が積もってもおかしくありません。その時期に吹雪かれて遭難した事例は特に珍しいものではありません。
    ゴールデンウイークのアルプスは完全に雪山で降雪があってもおかしくありませんが、カテゴリーとしては「春山」でしょう。

    分けるとすれば、「雪山(雪のある山全般)」か「雪のない山」の2択だけです。
    ※「夏山」の雪渓等については要検討。

    なぜ雪のあるなしを基準としないのか不思議でなりません。

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