2020年2月21日、第6回目の令和元(2019)年度の登山計画審査会が開催されました。
再発防止策の一環として策定した登山計画ガイドラインについて、県立高の登山に「登山アドバイザー」を原則帯同させるなどと改める最終案を登山計画審査会に示し、了承されたとのことです。
【那須雪崩事故】残雪の夏山 活動認める 登山審査会 県教委改定案を了承 https://t.co/5uxXtyWEdY #下野新聞
— 下野新聞 (@shimotsuke_np) February 22, 2020
しかしこの登山アドバイザー原則帯同は「原則帯同」と言いつつ例外もあり、県教委が指定する危険がない登山ルートでは登山アドバイザーの帯同を不要とするとのことです。
この点について、記事では以下のように記載されています。
(2020年2月22日、下野新聞 記事より抜粋)
この登山アドバイザー帯同の例外規定について、恣意的な判断がなされていることを危惧しています。そして、栃木県教育委員会と登山計画審査会のメンバーらが、この例外規定によって登山アドバイザーの原則帯同の制度を有名無実化しようと画策しているように感じます。
恣意的な決定
[形動]気ままで自分勝手なさま。論理的な必然性がなく、思うままにふるまうさま。「恣意的な判断」「規則を恣意的に運用する」
コトバンクより
https://kotobank.jp/word/%E6%81%A3%E6%84%8F%E7%9A%84-667587
仕組まれた例外規定
先日開催された「第2回高校生の登山のあり方等に関する検討委員会」において、県立高校の登山に登山アドバイザーを原則帯同させることが栃木県教育委員会から表明されました。
ただし、そこには例外規定が設けられており、以下のように記載されていました。
「低山で著しい危険がない等の理由」「登山計画審査会が認める山行ルート」「県教委があらかじめ明示する」、あいまいでどうとでも取れる表現が散見されています。
このような例外的取扱いを認めると、その例外を切り口として恣意的な決定がされ、実質的に制度を有名無実化してしまうことは今まで幾度となくあったことです。
実質的に制度を有名無実化するためにこの例外規定は仕組まれたものであると感じます。
「登山アドバイザー原則帯同」の方針がむなしく聞こえます。
「登山アドバイザー原則帯同」を有名無実化しないために
この例外的取扱いについて、恣意的な判断で制度を有名無実化するようなことがないよう、先日の「登山のあり方検討会」で委員として発言し、釘を刺したつもりでした。これまで栃木県教育委員会と登山計画審査会によって恣意的な判断がなされ、厳しい制度や基準が有名無実化することが繰り返されていたためです。
どこまでうまく言えたかは定かではありませんが、以下のように発言したつもりです。
知識や経験をもった人間が不在
登山アドバイザーが帯同しないということは、登山の引率の知識や経験をもった人間が不在ということです。そのような人間がいない中での登山ではしっかりとしたルールを定め、そのルールを守ることによって登山の安全を確保するようにすべきです。
そのために、危険がないようにその山に登る際のしっかりとしたルールを定め、そのルールを公表し、引率教員にそれらのルールを守らせるための制度設計が必要です。
安全に関するルールの作成と明示の必要性
確かに、栃木県での山で言うと三毳山(みかもやま、標高229m)のような公園として整備されているような山の登山にまで登山アドバイザーの帯同が必要かと問われると、肌感覚として不要かと思います。
しかし、そのような山であったとしても崖などの危険な箇所はきっとあるはずです。また、危険となってしまう天候条件があるはずです。
登山の引率の知識や経験を持った人間が不在であるとの認識の下、危険な場所・天候をしっかりと明示し、近づいてはいけない区域や通ってよいルート、中止すべき天候等の安全に関するルールを許可する山域ごとに作成すべきです。そしてそのルールが適正かどうか、登山の素人である保護者でも検証できるようにホームページ等で公開すべきです。
安全だと認められた登山ルートで、しっかりとしたルールを明示し、それらが公開された山域に限って例外的に登山アドバイザーの帯同を不要とするべきです。
ルールを守らせるための制度設計
そして引率する顧問教員にそのルールを守らせるための制度設計も必要です。
山岳部の活動には「保護者や他の教員の目が届かない山域で実施している」という特殊性があり、登山アドバイザーの帯同はその特殊性を排除し、教員の安全配慮に欠けた行動を監視するためといった意味もあったはずです。
登山アドバイザーの帯同による効果として、栃木県教育委員会から示された資料にも以下のような表現があります。
〇経験の浅い顧問の技量補完と複眼的な安全確保策
〇顧問の行動に対するチェック的効果
〇顧問単独による引率時の安全配慮に欠けた指揮監督等の抑止効果等
登山アドバイザーが帯同しない場合はこの顧問教員の行動を監視する機能をどのように補完・代替するつもりなのでしょうか?この監視する機能もしくは代替の機能がない限り、山岳部の活動の特殊性は排除できていません。
教員にルールを守らせるための制度設計を示し、山岳部の活動の特殊性を排除する必要があります。そうしない限りどんな低山への登山であっても登山アドバイザーは帯同すべきです。
那須雪崩事故は、「那須ファミリースキー場近郊」といういかにも安全そうな名称の場所で発生しました。その付近には安全に訓練するために適した場所がたくさんあったにもかかわらず、顧問教員らは「わざわざ」立ち入り禁止であったはずの国有林に入り込み、危険な斜面で訓練を実施して事故を引き起こしました。
ルールを作成し、そのルールを守らせるための仕組みが必要です。そういった制度設計がないままであれば、安全な登山ルートだったとしても、顧問教員は「わざわざ」危険な箇所に生徒を引率し、事故を引き起こすと考えるべきです。
以前、事故の隠ぺいや虚偽報告があった場合は今後どのように対処するのか、栃木県教育委員会に問い質したことがありました。その回答は「ゼロ回答」で、現状は顧問教員の事故の隠ぺいや虚偽報告を防ぐための制度設計はなにもありません。
同様に教員にルールを守らせるための制度設計も現状なにもない状況です。
何かしらの制度設計が必要です。
検討委員会でのお願い
以上のような考えを表明し、「第2回高校生の登山のあり方等に関する検討委員会」の場で以下の3点をお願いしました。
しかし、これらのお願いを考慮した形跡は認められず、登山計画審査会に於いて恣意的な判断が再び繰り返されました。
低山で著しい危険がない山行ルートについてルート、立ち入り可能な場所、危険個所、立ち入ってはいけない場所、中止すべき天候等を明示し、ルールとして徹底してください。そのルールは地図でビジュアルとして示し、素人でもわかるものとすること。
那須雪崩事故の訓練場所は「ファミリースキー場周辺」としか記載がありませんでした。しっかりと登山、訓練する場所を地図で示し、それ以外の場所には立ち入らないことを示してください。そしてそれをHP上などで公開してください。
登山アドバイザーが帯同しない山域では、顧問教員にルールを守らせるための制度設計が必要だと考えます。立ち入り禁止場所や中止すべき天候などのルールを定めたとして、教員がそのルールを守ると確信できる制度設計を示してください。
那須雪崩事故では、明らかに立ち入るべきではない場所で訓練が実施され、降雪があった翌日には山行を控えるといったガイドラインが守られることはありませんでした。
登山アドバイザー帯同必須化は、顧問教員がルールを逸脱しないための監視の意味もあるかと思います。
那須雪崩事故後から3年近く登山計画審査会の判断を見守って参りましたが、彼らは学校の活動としての判断ではなく、ただの山行としての判断でいろいろな事項を決定しがちだと思います。
また、元教員が委員長を務めるこの会で決定すべき事項ではありません。
実際、登山アドバイザー帯同を推奨する山域を一度この審査会で判断されましたが、県外の険しい山域に限定され、しかも5年以上の経験のある顧問であれば帯同不要もあり得るという内容でした。こちらから意見しなければ登山アドバイザーの制度自体が実効性のない有名無実の制度に成り下がっていたと思います。
例外規定は時期尚早
安全に関するルールも明示されず、顧問教員らにルールを守らせるための制度設計もされず、登山計画審査会の恣意的な判断によって県内外の16カ所の登山ルートについて登山アドバイザーの帯同不要の決定がなされました。
県内外の16カ所の登山ルートはどのような基準で選定したのでしょうか?
16カ所の登山ルートについて、立ち入り可能な場所、危険個所、立ち入ってはいけない場所、中止すべき天候等を明示し、ルールとして定めたのでしょうか?
そしてそれは保護者にもわかるような形で公開されるのでしょうか?
教員がルールを守ると確信できる制度設計はできたのでしょうか?
検討委員会での私の発言は全く無視された格好です。
登山アドバイザー帯同に例外を設けるなとは言っていないつもりです。
例外を設けるのであれば、上記でお願いしたような対応を取るべきであり、その対応がとれないのであれば登山アドバイザーは低山であっても帯同させるべきだと言ったつもりです。
なぜこのような決定がなされたのでしょうか?
登山計画審査会で再び恣意的な決定がなされたと非難されても仕方がない結果でしょう。
なにも対応がないまま例外規定を設けるのは時期尚早であったと思います。
制度設計がない限り、事故は繰り返される
ルールを守らない教員のリスク
先日、「とちぎモデル」の構築を提案する際に、リスクマネジメントの観点から高校生の登山の許容リスクを決定すべきだと述べました。
以下がリスクマネジメントでよく出てくる表で、横軸に事故が起きる可能性、縦軸にケガの大きさや事故の重大性が示されています。提案の際の資料に載せました。
登山アドバイザーが帯同しない登山では、知識と経験を持つ人間が不在のため、安全を保つための明確なルールを定めない限り安全は保てません。
さらに、そのルールを守らせる制度設計がない限り、教員はルールを逸脱し、危険な行動をしてしまうのは必然と言ってもいいと思います。教員がルールを守らない前提ではどんなに安全な登山ルートであってもわざわざ危険なルートを探し事故を引き起こす前提で考えざるを得ません。このままでは、リスクマネジメントの表の横軸で示された事故が起きる可能性についてはどうやっても「可能性が高い」もしくは「確実に起きる」としかできないのではないでしょうか?
このままではどんな低山の登山であっても、登山活動を許容することはできません。
リスクを低減するためには登山アドバイザーのような知識と経験を持ち、教員の配慮に欠けた行動を抑止する存在が有効です。もしくは重大な事故の発生する余地のない安全な登山ルートであることを示すべきですが、そんな登山ルートはよほどでなければあり得ません。
教員にルールを守らせる制度設計が必要
那須雪崩事故が発生した当日は、30cmを超える積雪でした。後の統計的な解析からは、このような気象条件は3月としては19年に一度の頻度で発生するとのことでした。
積雪が30cmを超えないまでも、事故現場で雪崩が発生する頻度を考えると数年に一度は危険な状態であったことが予想されます。あの場所で雪中歩行訓練を実施すべきではないことは容易に導き出せる結論だったはずです。
もし事故現場付近で雪中歩行訓練を実施するのであれば、事前に雪崩の危険性のない斜面を選定して訓練場所を明示し、訓練を中止すべき当日の天候をルールとして定めておくべきでした。そういった思いから、登山アドバイザーが帯同しない登山ルートでは登山ルートごとにルールを明確に定めるべきだと主張いたします。
また、そういったルールがあれば事故が防げるかというとそれだけでは不足です。
那須雪崩事故発生当時も「冬山はいつでもなだれのおこる危険性があるので、降雪中とその翌日は行動を中止するようにすること」といった天候に関する明確なルールがありました。
しかし、教員らはこのルールを守りませんでした。このルールを守ってくれさえいれば、事故は発生していなかったはずです。
いくらルールを定めたとしても、それだけでは教員はルールを守りません。それは必然です。
大半の教員はルールをしっかり守ってくれます。しかし、ルールを逸脱し、信じられないような無謀な行動をする教員が一定数存在することも否定できない事実です。そのような教員がルールを逸脱した際にどのように対処するのか制度設計し、しっかりとルールを守らせること必要です。
その制度設計がない限り、事故は繰り返されます。
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