遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

2017年3月27日に発生した那須雪崩事故の遺族・被害者の会のホームページです。

那須雪崩事故は死亡者8名、重軽傷者40名の学校管理下では最大級の事故でした。

那須雪崩事故について

登山計画作成のためのガイドライン素案に対する意見書を提出しました

要望

 栃木県教育委員会が策定した登山計画作成のためのガイドライン素案に対し、栃木県知事と教育委員会に宛てて11月5日に那須雪崩生徒遺族・教師遺族弁護団より意見書を提出いたしました。
 ガイドラインは拙速に策定され、不十分であると考えます。

 以下に提出した意見書の内容を記載します。

 登山計画作成のためのガイドライン素案(以下「素案」という。)について、弁護団として以下のとおり意見を述べる。

第1 はじめに

 「運動部の指導のガイドライン」(平成25年5月 文部科学省作成)によれば、生徒にとってのスポーツの意義について、「スポーツは、スポーツ基本法に掲げられているとおり、世界共通の人類の文化であり、人々が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むうえで不可欠なものとなっています。特に、心身の成長の過程にある中学校、高等学校の生徒にとって、体力を向上させるとともに、他者を尊重し他者と協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度や克己心を培い、実践的な思考力や判断力を育むなど、人格の形成に大きな影響を及ぼすものであり、生涯にわたる健全な心と身体を培い、豊かな人間性を育む基礎となる」としている。  上記の生徒にとってのスポーツの意義について、ほとんど異論のないところであろう。当然、登山部の活動も、スポーツに含まれ、上記の意義があてはまる。
 素案についても、「登山の意義・目的」(1頁)において、その意義が述べられており、これ自体に異論はなく、ガイドライン作成にあたっても当該意義・目的に即したものとならなければならないが、特に「計画立案の重要性を学ぶほか、危機管理意識の向上、他のメンバーとの協力意識や協調性を醸成、さらには、チームワークの中で任された自分の取るべき行動について主体性を持って取り組むこと」という視点から述べる。
 もっとも、「チームワークの中で任された自分の取るべき行動について主体性を持って取り組むこと」については、素案において何ら触れられておらず、どのようにチームワークを図りどのように主体性をもって取り組むのか不明確であることから、素案の内容としては不適切である。

第2 拙速なガイドライン作成は避けるべきこと

1 拙速な策定

 素案は学校行事としての登山活動と部活動としての登山活動の両方を含めたガイドラインになっている。部活動における登山活動の再発防止策については、取組が示されたが、その説明会への質問、その回答への再質問がまだ継続中である。また、新組織において部活動の在り方を含めた再発防止について遺族を含めて検討することを要望しているところである。また、再発防止策がまだ実施されていないところやその成果に実効性があるか疑問が持たれるところもある。
 新組織における検討が先にあるべきであり、検討がされない中で、部活動の登山活動のガイドラインを策定する拙速なものである。部活動の登山活動の安全や安心が保障されない中で、ガイドラインが先行することは、冬季の登山も含めた登山活動を継続するという結論ありきであると判断されてもやむを得ないであろう。

2 部活動のガイドラインについて

 昭和41年通知を廃止したため、再発防止の上でガイドライン作成が早急に作成する必要があるのであれば、今回のガイドラインは、部活動を含めずに、学校行事における登山活動計画のためのガイドラインにすべきである。部活動のガイドラインについては、新組織の検討や遺族の再質問等が終了した後に作成すべきである。

第3 冬山登山の全面禁止

1 素案の規定内容

 冬山登山について、素案では「積雪期の状態にある山への登山である冬山登山については登頂を目指すか否かを問わず、本件県立学校においては、実施を認めない」としている(2頁)。
 積雪期とは、「冬季を中心に断続的な降雪等により雪が相当期間堆積する時期」をいうとしている。
 冬季における登山について、「標高が低く、積雪期の状態にない山における登山はこれまでどおり冬の間であっても実施を認める」としている。

2 曖昧な規定であること

 しかし、「積雪期」の解釈について、「冬季」とは明確にいつであるか不明である(もっとも、特定の月日での指定は困難であり、標高の違いや気象状況の差異によっても異なる。)。「断続的な降雪等」としているが、「断続的」とはどのような状態を指すのか不明であり、「等」には何が含まれるのかも不明でわる。さらに、「相当期間」がどの程度の期間を指すのか、「堆積」とはどの程度の堆積を言うのかも不明である。このような曖昧な定義で、誰がどのように判断するのかも明確ではない。たとえば、山頂付近は降雪しているが、麓付近は降雪していないという場合などはどのように判断するのであろうか。
 結局、「積雪期の状態」にあるかどうかという判断は曖昧なものでしかなく、判断権者によって恣意的に判断されてしまう。

3 判断権者が不明確であること

 高校生はまだ成熟しておらず、その過程にある。判断能力に乏しい高校生にとってみれば、顧問が積雪期の状態にないと判断すれば、それが正しいのだと判断せざるを得ないことになる。

4 「低山」が安全であるという認識に立っていること

 冬山登山の危険性は、雪崩だけではない。素案にもあるとおり、リスクについて「凍結、吹雪、転滑落、埋没、凍傷、低体温症」を挙げている。素案は、低山の目安を1000m未満としているようであるが、なぜ1000mを基準とするのか根拠が示されていない。1000m未満であっても、上記のリスクはあるのであり、低山だからといって、そのリスクがないかのように記載されている。
 また、冬季における低山登山が、平成29年12月1日スポーツ庁通達に沿ったものであるのか不明瞭である。同通達は冬山登山を原則禁止とし、例外的に以下の条件を満たしたものを認めている。
①適切かつ安全な場所でも基礎的な内容にとどめること
②指導者の条件を整えること
③登山計画審査会(仮称)の事前審査を受けること
④校長及び保護者の了解を得ること
⑤生徒への事前指導等を実施すること
 素案の「低山」は、適切かつ安全な場所を指しているのかもしれないが、そのような記載もない。当然、「低山」であっても、滑落の可能性が高い場所もあり危険な場所はありうる。したがって、「低山」というだけでは、上記①の要件を満たすわけではなく、スポーツ庁の通知を逸脱したものであろう。

5 高低差のない高原、湿原等で木道等のコースでの活動も登山とするべきであること

a. ガイドラインの内容

 第1章第1項 「標高の高低を問わず、また、山頂を目指さなくても、登山道(整備された遊歩道を除く。)等を歩くものを登山と定義する」とある。また、「高地であっても高低差のない高原、湿原等で木道等コースが十分に整備されているルートは登山としない。」としている。
 高低差のない高原、湿原等で木道等のコースが十分整備されているルートで行われた場合、ガイドラインの対象外となる。また、登山審査会の審査、県教委の承認を必要としないことになる。日帰りの場合には、届け出も必要でなくなる。

b. 本件事故

 本件事故では、最初はスキー場の第2ゲレンデの中の1本木まで横一列に進んでいった。1本木がかつて雪崩で遭難した個所に植えられたと言われている。1本木まで横一列で進んだ行為は、「木道等コースが整備されている」に該当する。また、その後の樹林帯の中を進んだ行為は、「登山道等を歩くもの」の等に含まれ登山となる。本件事故は、登山に当たらない行為と登山行為が行われた中で雪崩事故となったのである。ゲレンデで雪崩に遭遇しないとは言えず、ガイドラインが規定する登山道でなくても雪崩に遭遇する可能性は十分にある。ガイドライン素案上では、登山とならないものは審査会の審査は不要となってしまっている。
さらに、本件事故で登ったルートは、顧問の判断と指示により決定された。樹林帯の中のコースやその上にコースについては、当然登山道ではなく、那須岳によく登る冬山登山者のほとんど入らない危険なバリエーションルートであり、道なき道を進んだものである。「登山道等を歩くもの」と定義した場合、本件事故でのキックステップという行為が登山に該当するのかどうか曖昧である。

c. まとめ

 したがって、登山の定義を「登山道等を歩くもの」よりももっと広くすべきでなないか。高低差のない高原であっても、湿原等で木道等が整備されているルートであっても登山であるとすべきである。

6 小括

 このような曖昧な判断を恣意的になされるおそれがあること、低山であれば冬山登山をしてもよいことの根拠が不明確であることからすれば、高校生は安全に部活動を行うことはできない。したがって、冬山登山を全面的に禁止するべきである。
 なお、以下、冬山登山をするとしても修正すべき箇所について述べる。

第4 施設周辺での活動などの野外活動も登山審査会の審査を受けるべきであること

1 野外活動との区別

 野外活動と言われる活動と登山との区別が不明である

2 学校安全課の審査でよいのか

 本講習会では実施要領によると第1目は学科(講話と講義)とテント設営である。2日目は実技講習(峠の茶屋付近)である。ここまでで終了する活動であるならば、登山に該当しない。
 実際には、このような野外活動が中心の活動もあるはずである。この場合は学校安全課が審査を行うとなっているが、専門家がいないと考えられる学校安全課の審査でよいのであろうか。野外活動においても、登山審査会の審査を受ける制度設計をするべきである。

第5 登山のリスクを最小にする方法

1 登山活動は非常に危険

 登山のリスクを確実に排除できる段階になるまでは、登山活動を行うことは非常に危険である。ガイドラインに沿って計画、実行することは、生徒や顧問の命を危険にさらすことである。

2 リスクの認識

 第1章第3項で登山のリスクについて「転滑落による怪我や最悪の事態としては命を失う可能性もあるリスクと背中合わせの活動と理解する必要がある。」、「中断を決断しても、下山までに様々な困難が伴うことが考えられる。」「遭難の危険性も常にはらんでいる活動である。」、「高山病をはじめとして、風や腹痛、その他身体的故障が起きるリスクを伴う。」としている。そして、「こうしたリスクを十分に認識し、適切な対策を講じる必要がある。」と結んでいる。

3 リスクを最小にする手立てが述べられていない

 ガイドラインではこれらのリスクを最少にする手立てが述べられてはいない。命を失う危険性と背中合わせであるから、それを認識し適切な対策を講じることは、本件事故の発生経緯からすれば、登山専門部や顧問には無理である。専門家が予想される危険性を排除する方法を確実に示せないならば、生徒や顧問の命を常に危険にさらすことになる。

4 生徒の命の軽視でしかない

 命を落とす危険性が排除できない登山活動は、学校教育の中では行わないようにすべきである。避けられないような危険性を認識し対策を講じることをガイドラインで述べることは、生徒の命を軽視するものでしかない。


コメント

  1. AAA より:

    相変わらず「冬山」という単語が並んでますね。
    「登山計画作成のためのガイドライン素案」には言及がないみたいですけど、例えば、ゴールデンウィークのアルプスなんかはどういうふうに定義付けしてるんでしょうかね?
    積雪期ではなく残雪期で、冬山じゃなくて春山ですし。

    そもそも那須雪崩事故の時も、どちらかと言えば、残雪期で春山でしょう。
    一応、降雪があれば中止と明記されていますが、雪が降らなければ、同じようなことをするのも可能なように読み取れます。

    雪山を「冬山」というよくわからなくて狭い範囲でのみ定義付けしてはいないでしょうか?

    今までに何度も書いていますので、「冬山」等の単語にケチをつけるのはこれで最後とします。