遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

2017年3月27日に発生した那須雪崩事故の遺族・被害者の会のホームページです。

那須雪崩事故は死亡者8名、重軽傷者40名の学校管理下では最大級の事故でした。

那須雪崩事故について

部活動での事故

遺族の思い

部活動での事故

 いろいろな方の勧めで著書 ”ブラック部活動” で有名な名古屋大学准教授の内田良先生の著書を読み進めています。 ”教育という病~子どもと先生を苦しめる「教育リスク」(光文社新書)” では「教育リスク」という言葉をテーマとし、体罰や事故、教員の負担などをエビデンス(科学的根拠)を基に論じておられます。

 組体操や2分の1成人式についてや部活動の在り方など考えさせられる内容が取り上げられています。

学校安全のヒント

 その中で部活動の事故についての興味深い内容がありました。
 死亡事故が相次ぐ柔道の危険性が2012年ごろにマスコミに報じられ、その後の対策によって安全性を高めた柔道界の取り組みが述べられていました。その結果、毎年のように発生していた死亡事故が2012年以降の3年間ゼロ件になったとのことです。柔道界の意識改革によって事故を大幅に少なくすることができたのです。残念ながら2015年には再度死亡事故が発生してしまったとのことですが、ここに部活動の在り方や学校での安全についてのヒントがあるのではないでしょうか。

 柔道や登山の活動に限らず、部活動での安全は長年ないがしろにされ続けてきたのではないでしょうか。こういった取り組みが広がり、部活動やスポーツ活動全般の安全性が高まってほしいと願います。
 この柔道の死亡事故低減の結果を生み出す原動力になったものはなんであったのかは気になるところです。長年放置されてきた柔道の安全性にメスが入れられたのはなぜだったのでしょうか。学校での武道の必修化に伴いマスコミに騒がれたことがキッカケなのでしょうか。それとも問題意識を持った関係者の方が積極的に活動し、この結果を生み出したのでしょうか。

原動力

 8人もの命が失われた今回の事故に対する対応は、見栄えの良い表面的な対策だけで、県や教育関係者が本気で対策に取り組んでいるようには感じることができません。この柔道界を動かした原動力が今回の事故の対策にもあることを願います。

 一方、それでも柔道の死亡事故が途切れなかったことに部活動の問題の根の深さを感じます。
 先日3/25に発足した日本部活動学会の中で、「中高の競技経験だけで、部活動顧問はそのスポーツの専門家を名乗るべきではない。教員は教科の専門家。」との共通認識が持たれたと耳にしました。今回の事故を受けた再発防止策では顧問の先生への研修の充実なども言われていますが、顧問や指導者に向けた安全性の教育だけでは問題は解決せず、部活動自体の制度設計があいまいであることが浮き彫りになってきたように感じます。私たちも顧問の先生に登山の専門家になることを求めているわけではありませんし。

柔道での死亡事故

 柔道では毎年のように部活動での死亡事故が発生しており、それが当たり前の状態として放置されてきた実態があったとのことです。また、著書の中では柔道家らが集まるとある学会の年次大会での経験が語られており、当時柔道事故が軽視されていたことがわかります。

「日本では、過去30年あまりの間に、学校の柔道で118名の子どもが亡くなっている。」
「⋯、海外での柔道による死亡事故は、仮に起きているとしてもごくわずかであり、少なくとも日本のような多発している状況は生じていないと結論付けられる。」
「柔道では、その固有の動作(投げ技、受け身)のなかで死亡事故が起きている。そして、その死亡の原因のほとんどが固有動作が引き起こした頭部外傷によるものである。」

 そこでは、柔道事故に関連する報道が相次いでいることについて、それを「柔道バッシングだ」と断じたり、「柔道にはいい側面があるはずなのに、ネガティブなところを強調しすぎ」と残念がったりする意見が多くあった。「柔道というのは、そもそも人が死ぬ覚悟をもってやるものだ」という過激な意見を熱弁する柔道家もいた。

柔道界での事故防止対策

 しかし、柔道事故が一気に社会問題化した2012年以降、状況が変わりました。
 なにがあったのでしょうか?
 その間に頭部外傷の予防を中心とした安全対策の取り組みが開始されたそうです。

⋯ 2012年以降、死亡事故がゼロになったという事実である(2015年4月時点)。
⋯ 2009年に4件、2010年に7件(町道場での小学生の死亡2件を含む)、2011年に3件と死亡事故が続いていて、柔道事故が一気に社会問題化した2012年以降、突然にゼロ件になったのである。驚くべき変わりようである。

⋯その答えは、簡単である。学校の部活動をはじめとする柔道の指導現場で、頭部の外傷に対する意識が高まったからである。

2010年に入ってから全柔連では二村氏らの尽力により、頭部外傷の予防を中心とした安全対策の取り組みが開始された。事故防止の施策は、数多くある。公認指導者資格制度の確立、学校現場向けの指導教本の作成、さらにはそれらを統括する安全指導プロジェクト特別委員会の設置などである。頭部外傷の予防は最優先事項である。

2011年度から試行的に全柔連が設けた「公認柔道指導者資格制度」(2013年度より完全実施)では、学校や町道場などの三段以上の柔道指導者には、全員が都道府県の柔道連盟(協会)開催の「安全指導講習会」を受講するよう要請がされた。欧州会では、先の「柔道の安全指導」に沿って、頭部や頸部の事故防止をはじめとして安全指導を徹底することが求められた。

その後に向けて

 全柔連「柔道の安全指導」では事故発生の要因についてこう述べられています。

受傷者の苦痛や家族の負担を考えたとき、不可抗力や避けることのできないこととして責任を回避することが許されるものではありません。事故の要因の分析は、指導者や管理者が安全対策を講じるうえで欠かせないことです。

 これに対し、内田先生は著書の中で「事故防止のための明確な意志が読み取れる」と評されています。その通りだと感じます。その上でこの取り組みについて以下のように述べ、高く評価されています。こういった取り組みが広がり、部活動やスポーツ活動全般の安全性が高まってほしいと願います。

柔道にけがはつきものと考えている限りは、このような結果はけっして生まれなかったであろう。事故のエビデンスを直視し、それにもとづいて対策を立てれば、子どもの命が救われる。この「柔道事故防止モデル」の成果は、柔道に限らず、他の競技種目にも適用できるはずである。

 

 

 

 


コメント

  1. 元高校山岳部顧問 より:

    元山岳部顧問として、今回の事故は残念でなりません。そして、どのような報告書と改善策が出てくるか注視していましたが、事前に想像した範囲のものでしかなく、失望もしましたが、その程度のことしかしないだろうとも思っていました。末端の人間として怒りを覚えるのは、3人の先生を生贄にしたな、ということです。

    高校山岳部の顧問をしていた人にとって、栃木の先生方は、山に対しても、自己研鑽に対しても、熱心な印象でした。その中には、登山研修所の研修に参加されている方もいました。それは登山研修所の所長を務め、現在は登山研修所の友の会にもかかわっていらっしゃるWさんがいらしたからでした。Wさんは高体連の部長さんもされていました。おそらく、以前の雪崩事故の時は部長さんだったはずです。
     
    そうした熱心なグループの先生が、今回のような、傍からみると、「なぜ、こんなときに、そんなところへ」という事故を起こしたことに、衝撃を受けましたし、本当に残念でなりません。

    こうなると、灯台下暗しではありませんが、自分たちで自分たちの何が問題なのか、本当は、あまり認識できていないのではないかと感じます。調査委員会にかかわった登山研修所の先生方は、皆さん、すばらしい方ばかりです。でも、同じ池の中にいる方々であることには変わりありません。

    事態を改善するには、異なった視点や考え方が必要なのではないかと思います。高体連や教育委員会、そして県は、そうした認識が掛けているように思います。部活問題にせよ、組体操にせよ、外部である内田先生のような方が指摘して、問題が顕在化しました。雪崩教育を熱心に長年続けているグループが日本は複数あります。そうしたところに対し、教育委員会や県は何か意見を求めたのでしょうか。そうした話はでてきません。

    登山といった分母の小さい世界は、昔、山をやっていた人がとても熱心で中心的に動くようになります。結果、内田先生の書かれているように、善意ある熱心な先生の認識が変わらない限り、問題は解決しません。なのに、現状、内輪だけで固まって、今後、どうしよう、という話をしているようにしか見えません。残念です。

    • 御GU 父 より:

      内田先生の著書を読み、私も同様の思いを抱くようになりました。
      元山岳部顧問の方よりこのようなコメントを頂けてありがたく思います。

    • 元高校山岳部顧問 より:

      今回の事故は関連する幅広い人に、それぞれ相応の責任があるはずです。現場からは離れましたが、以前、他県とはいえ、その職域にいたという面で、当方にもある種の責任があると考えています。

      高校は教育機関です。ですから、学習成績において、生徒側に何か問題が起きれば、教授内容や教え方が適切であったのか、という視点でも問題を考えます。今回も基本的に同じです。山岳部顧問に対して、高体連および高体連が所属している県の山岳連盟、そしてその上部団体となる日本山岳協会は、適切な内容の研修をしていたのか、という問いが必要です。しかし、それに関して、報告書では一切触れていません。

      触れないのは実質的に何もしていなかったからです。事故直後、日本山岳協会の山岳指導員資格の失効が報道されていました。何も知らない人からみれば、公益法人が発行するすばらしいものに見えるかも知れませんが、雪崩に関しては本当に、ごく簡単なことしかやっていません。

      大学山岳部に所属し、登山研修所で当時の名手や雪氷の研修者に教えを受け、その後もゆっくりとしたペースで山は続けてきました。それにより、自分自身は、誰よりもきちんと山をやってきたと信じていましたし、そのように生徒にも指導していました。そして、5年ほど前、山スキーを本格的に再開するにあたり、ある団体の雪崩講習を受け、愕然としました。自分が体系的に整理された教育をまったく受けていなかったことに気づいたのです。それが先の灯台下暗しの意味です。つい最近までそれを自覚することもなく、平然とベテラン気取りで、生徒指導してきた自身を恥ずべき存在だと感じていますし、ある面で、この事故の責任があると感じる理由です。