遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

引率される生徒も、引率する教員もどちらも不幸


栃木県教育委員会は栃木県立高校の主に新任の高校山岳部顧問を対象とした研修会を開催したとの報道がありました。2年前の那須雪崩事故の再発防止策の一環として実施されたものです。


研修会の開催自体は結構なことで、新任の山岳部顧問の教員が登山の引率について学び、顧問としての資質や知識を得る有意義な機会であったのだろうと思います。

しかし、部活動の安全性が顧問教員の資質によって左右されてしまう状態は事故前と何ら変わってはいません。顧問教員の知識や認識の不足はもとより、顧問教員の転任などによって一から教育がやり直しとなり、危険性が増してしまうことが懸念されます。その問題に手を打つことなく無為に研修や講習を重ねたとしても事故は再び繰り返されてしまうことでしょう。
 
根本的な対策がなされないままこのような顧問教員に対する研修会が開催され、さも再発防止策はしっかり実施されているという表面上の体裁だけが世間に報道されるたびに苛立ちが募ります。

このままの山岳部に持続性はあるのでしょうか

この新任顧問向けの研修会、下野新聞の報道によると50代の新任顧問も参加しているとのことでした。
下野新聞 4月19日朝刊記事「 県教委 新任顧問向け研修」 より

新任顧問が50代ということに単純に驚きを感じます。50代になってから登山の指導を学習し、登山を安全に引率できるような経験を得ることができるのでしょうか。20代や30代の若手に顧問を押し付けるのもどうかと思いますが、登山の指導経験のない50代の教員が新たに山岳部顧問になるのはさすがにどうかしているのではないでしょうか。よほど顧問の引き受け手がいなかったとしか思えません。

また、事故後大田原高校山岳部の顧問を引き受けていた教員がこの4月で他校に転任し、40代の登山未経験者の教員が新たに顧問となったと聞きました。今後の登山活動はどのような体制で実施されるのかわかりません。

このように研修や講習によって顧問教員の資質をいくら高めたとしても教員が他校に転任してしまえばまた一からやり直しとなります。そんな時のために他校の登山引率経験豊富な教員が助っ人として一緒に登山することが再発防止策として制度化されているようですが、事故の検証委員会では他校の教員が引率していたことが事故発生の要因として挙げられています。今回の研修会でもその点について述べられていたことは栃木県教育委員会や新任顧問教員に対する皮肉に聞こえます。

雪崩事故教訓 山岳部顧問研修会 NHK NEWS WEB より
今回の雪崩事故では、事故にあった班を引率した教員は生徒とは別の学校だったため、生徒の名前も知らなかったことに触れ、「アクシデントの際にはまず名前を呼ぶ。生徒のことは事前にしっかりと把握しておくことが絶対に必要だ」と強調しました。
教員が転任してしまうだけで教育が一からやり直しとなって安全性に疑問符がついてしまうような山岳部の活動に持続性はあるのでしょうか。

引率される生徒も、引率する教員もどちらも不幸

現状の再発防止策では顧問の資質を担保するため、顧問教員が引率して登山を実施する場合には登山経験5年以上が必要という基準が定められています。(そもそもこの5年という基準には何の根拠もないので異論を唱え続けていますが今回は置いておきます)

この点について教育委員会に以下のような問いかけをいたしました。

・5年以上の登山経験が求められることから、それ以前に登山経験がない顧問歴2~3年の教員は登山歴が5年になるまでは顧問を辞められなくなるのでは。
・5年以上顧問を務めた教員は、貴重な引率可能な顧問となるためさらに顧問を辞められなくなるのでは。
・この制度の結果として山岳部顧問を辞めづらい雰囲気となってしまうのでは。
・那須雪崩事故では新任の教員が意に沿わない山岳部顧問を命ぜられ、命を落としました。今後も意に沿わない部活動の顧問を教員に強要するつもりなのか。

これに対して栃木県教育委員会から以下のような返答がありました。

・登山歴は累積で5年としているから顧問歴2~3年で辞めづらくなることはない。一度辞めても再度顧問となれば登山経験としてカウントされる。
・部活動顧問は教員の業務であるから、意に沿うか沿わないかは関係なく業務としてしっかりと対応してもらえるはず。
根本的な解決のない、場当たり的な回答です。
回答では今後も登山経験もない教員が業務として山岳部顧問を命ぜられ、数々の研修や講習を受けて登山を引率することとなっています。研修会に参加した50代の教員や新しく大田原高校山岳部の顧問に就任した40代の教員もきっと業務として山岳部顧問を命じられたのでしょう。
知識も経験も乏しいただのアマチュアである教員が登山を引率する構図は今後も事故前と何ら変わることはありません。
 
現状の再発防止策は事故前と根本的には何も変わるところはなく、顧問教員に無理を押し付け、過大な責任を背負わせているものであると感じます。この研修会ひとつ取ってみても無理があるように思えてなりません。「無理をしない、させない」というのはこの研修会で述べられた内容とのことですが、これも無理をしている教員らに対する皮肉であるように思えます。
下野新聞 4月19日朝刊記事「 県教委 新任顧問向け研修」 より
このようにしっかりとした制度設計もない安全が確保されない中で実施される山岳部の登山は、引率される生徒も、引率する教員もどちらも不幸になってしまうものなのではないでしょうか。

顧問の資質に頼らない再発防止策を

教員の資質に頼らなくても無理なく安全に登山できるような制度設計がなければ、顧問を押し付けられた教員が引率することによって今後の山岳部の活動は危険性が増すことが考えられますし、この先衰退していくこととなるではないでしょうか。

この数年内で他の部活動は外部指導員を積極的に活用していく方針であると栃木県教育委員会は述べています。他の部活動が外部指導員を活用して顧問教員に過度な負担を掛けることなく活動しようとしている中、山岳部は相変わらず教員が引率することにこだわり続け、過度な負担を強要しているように思えます。

もっと教員に頼らず、顧問教員の資質に頼らずとも安全に登山できるような制度設計がなされることを願います。無理をして活動を続けることはもう止めていただきたい。


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