遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

2017年3月27日に発生した那須雪崩事故の遺族・被害者の会のホームページです。

那須雪崩事故は死亡者8名、重軽傷者40名の学校管理下では最大級の事故でした。

那須雪崩事故について

栃木県高校体育連盟「危機管理マニュアル」

主張

 那須雪崩事故を受け、栃木県高校体育連盟は危機管理マニュアルを作成し、全35専門部に配布したそうです。事故を起こした登山専門部だけでなく、高体連に所属しているすべての専門部で安全性を再確認して作成したそうです。
新聞記事:事故受け、危機管理マニュアル公表 県高体連が35競技 /栃木

栃木県高校体育連盟からのダウンロードリンク
危機管理マニュアル 総論編
各競技安全確認チェックリスト

 うちにも1部郵送で届きました。説明も何もなしで届けられるのはいつものことですので、苛立ちはありますが、もはや慣れました。送られてこないよりはマシです。

 マニュアルはA4判158ページにも及ぶ冊子です。専門部ごとの「安全確認チェックリスト」では、各競技ごとに事故防止のチェック項目がまとめられています。
 高体連は各種大会運営をするための顧問の先生方の集まりであるので、このマニュアルには各競技の大会を安全に運営するためのガイドラインとしての役割があるはずです。また、日頃の練習などの場面での注意喚起に使用することも想定しているようです。

実効性の欠如

 このマニュアル、パラパラと何ページか拝見しましたが、内容は表面的であいまいなもので、実効性のないものだとわかりました。その理由は思いつくだけで3点あります。

1)警報発令以外の大会中止を判断する手順と基準が記載されていない
2)チェック項目の記述が抽象的でチェックにならない
3)継続的に実施し、後世に引き継ぐ仕組みがない

マニュアル作成の意図

 なぜ、ちょっと見ただけで実効性がないことがわかるような内容のないマニュアルになってしまったのでしょう。作成した高体連の顧問の先生方の能力が足りないのでしょうか。

 きっとそうではなく、意図的にあいまいな内容のマニュアルにしていると考えられます。

 ちゃんとしたマニュアルを作り、生徒の命を守るためのきっちりとした仕組みを作ってしまうと各競技の大会運営に支障が出てしまうのでしょう。ちゃんとした判断をすると気象条件などで大会が開催できない日が多くなり、日程を組みなおしたり会場手配をやり直したりして大変なことになるかもしれません。特に夏の暑い日には熱中症のおそれがあるので、夏季の大会は大変です。高体連はそういった事態を恐れているのだと思います。

 言い換えると生徒の命と大会運営の都合を天秤に掛け、大会運営を優先してしまっているということです。しかもチェック項目に具体的な数値などは盛り込まずにあいまいにし、しっかりと自分たち教師に責任が及ばないような記述になっています。

 このマニュアルからは生徒の命よりも部活動や大会の運営を優先し、事故が発生しても自分たち教師に責任が及ばないようにしようといった意図を読み取ることができます。8名もの命を犠牲にした事故の反省を全く感じることができません。

大会中止を判断できない

 熱中症を例にとり、内容を確認してみます。

 危機管理マニュアルと銘打った冊子なのですから、まず真っ先に記載すべきことは大会中止を判断するための手順と判断基準だと思います。熱中症を例にとると、熱中症の危険度を示す指標に対して一定の基準を定め、その基準を超える酷暑日には冷房設備のない場所での大会や部活動は中止にすべきです。

 危機管理マニュアルを見ると気温と湿度を測定し、一般的な熱中症の指標であるWBGTを用いて熱中症の危険度を判定するように記載されています。引用された図ではWBGT28℃以上では激しい運動は禁止、31℃以上では運動は原則中止するように記載されています。

 しかし、大会運営に関する記述では一時間ごとにWBGTを測定するようにとの記載はあるものの、その後の対応は「注意喚起を行う」や「競技会等の中断や水分補給を行わせるなど、熱中症予防に努める」との記述があるだけです。WBGTがいくつ以上の場合は大会を中止すべきだとか中断すべきといった判断基準はなにも記載されていません。

あいまいなチェック項目

 さらに各競技別のチェック項目に目を向けると、たとえばバスケットボールの熱中症に関するチェック項目にはこう書かれています。

陸上ではこう書かれています。

 気温が35℃に達するような酷暑であっても、熱中症指数を確認し、その競技を実施するにあたって適切な気温であると顧問の先生が判断したならばそのチェック項目はチェックされてしまいます。生徒の安全を考えるならば、WBGTがいくつ以上になった場合は大会を中止するとか、具体的で定量的な指標が示されるべき項目です。あいまいな記述によってどんな気象状態であっても顧問の先生方の判断で大会は実施できてしまいます。大会運営の都合で意図的にそのようなあいまいな記述としてしまっているのでしょう。

安全よりも大会運営

 このようにあいまいな記述にしている理由は明白です。厳格にWBGTのような基準を適用し、酷暑日の大会を中止や延期にすると、想定した期間中に各種大会を消化しきれなくなってしまうからです。そのような事態を栃木県高校体育連盟は恐れているのだと思います。

 このようにあいまいな記述で酷暑日にも大会は実施され、参加した生徒は熱中症のリスクにさらされてしまいます。大会運営の都合で危機管理マニュアルは骨抜きにされ、安全性に対して実効性のないものとなってしまっています。そういった点から判断してこの危機管理マニュアルは大会運営を第一に考えられたマニュアルです。「生徒の安全を第一に考え」との教育長のお言葉がむなしく聞こえます。

あいまいな責任

 また、先ほど述べたとおり、このマニュアルには熱中症予防に関して大会中止の基準が記載されていません。そのため、たとえ35℃を超えるような酷暑日に大会を実施し、参加した生徒が熱中症で死亡するなどの重大な事態が発生したとしても「暑いので水分補給をして気を付けましょう」と注意喚起さえ行っていればマニュアル通り実施したとして顧問の先生方の責任は問われることはないのでしょう。先生方の責任回避に対しては抜かりのない大したマニュアルになっています。

 今まで通り大会や部活動運営の都合を優先し、事故があっても顧問先生方に責任が及ばない仕組みは何一つ変わっておらず、生徒のみがリスクを負うような構造になっています。

 生徒の安全を第一に考えるならば、大会の開催時期の見直しや大会期間の延長なども検討し、本当に実効性のある対応をとるべきだと思います。なにも変えずに小手先だけで対応しようとする栃木県の体質はいつまでも変わらないのでしょうか。

 栃木県高体連の全35部門の中に、このマニュアルの内容はおかしいのではないかと声を上げてくれる顧問の先生はどなたもいらっしゃらなかったのでしょうか。どの専門部のチェック項目を見ても定量的に示されたものはなく、示し合わせたように曖昧な表現に統一されていました。先生方はみなさん生徒の命より大会運営が優先だと考えておられるのでしょうか。残念でなりません。

継続する仕組み

 それでもなにもないよりはマニュアルがあるだけマシなのかもしれません。「気象警報」が出ている場合は屋外で実施の大会は原則中止にするという当たり前のことが当たり前に書いてあるのですから。

 しかし、継続してこのマニュアルを用いてチェックし、大会を実施し続ける仕組みはなにかあるのでしょうか。そういった継続させるための仕組みがないと、作ったはいいが、あっという間に風化し、数年後には全く使用されなくなるのではないでしょうか。

 このマニュアルは一体いつまで顧問の先生方の手元に残って使用されているのでしょうか。

 下野新聞さんの記事によると「危機管理委員会」なる集まりが、今年の9月と来年3月に開かれてマニュアルの運用状況を確認するそうです。今までの栃木県の対応から考えて、3年も継続していれば大したものだと感じます。

 この危機管理マニュアルは2018年6月5日に完成し、栃木県高校体育連盟の各専門部に配布されました。栃木県下の高校部活動の顧問の先生がこの記事を見ておられるのであれば、この危機管理マニュアルがどのように使われ運用されているのか、1年後、3年後、5年後、10年後にこのコメント欄に投稿いただければ幸いです。このWEBサイトがいつまで残っているかもわかりせんが。


コメント

  1. サーマル より:

    初めてコメントさせて頂きます。

    先日からニュース等で報道されている目黒区の幼児虐待事件。この事件は前居住地、香川の児相から目黒区の児相への引き継ぎがあったにもかかわらず、目黒区の児相は家まで行っても母親に拒否されて、子供を確認もせずに帰ったそうです。
    以前から児相が積極的に関わらずに、虐待による最悪の結果になる事件が後を絶ちません。

    この事件に対する記事で興味深いものがありました。

    事件が起こるたびに、「二度と繰り返さないよう、これから会議をし、検討します」と繰り返してもきました。ところでいくら会議しても教訓が生かされない以上、それらはすべて、ポーズにしか見えません。彼らは前例主義とポーズだけで給料がもらえる結構な身分だと言わざるを得ません。命を預かる役所がこれでいいのでしょうか。

    そして今回もまた、不作為の罪にわれる公務員は一人もいません。「胸は痛む」という道義上の責任があるだけでしょうか? 解釈が複雑で適用が難しい法を何本も作るより、この段階でも明らかに不作為による罰則規定を作る方が、数倍、救われる命があるのは確実です。こればかりは性善説に限界があると、訴えるものです。

    いかがでしょうか、どこの公務員も同じで「二度と繰り返さないよう、これから会議をし、検討します」問題が起きた時の公務員のこの常套句は、集まって話しはするけど何もしない、私にはそう聞こえます。

    20170327・あの日を忘れたことはありません。