先日、登山専門部部長の大田原高校長と話す機会がありました。
「登山計画審査会で冬季の登山を申請している学校があるが、それぞれの学校は冬季の登山の実施を何のために申請したのか、どこの山を申請したのか」と尋ねました。
その回答は、「申請は各学校の校長の責任で出しているので把握していない。」というものでした。
登山専門部は各校の登山の実施状況まで把握しておらず、冬季の登山を各校が実施するかどうかについても各校に任せているということです。登山の実施は各校の校長の判断に任されているらしく、登山専門部は関与すらしていないようです。
では、各校の校長はどのように判断されているのでしょうか。
各校長に実際に訊いたわけではありませんが、冬季の登山を許可した理由を尋ねるときっとこう言うのでしょう。「栃木県教育員会が冬季の登山実施を許可した。問題ない。」と。
栃木県教育委員会に同様の質問をしたら「登山計画審査会で専門家の意見を伺い、問題ないという判断が得られた。その判断を基に冬季の登山実施を許可した。」と言うのでしょう。登山計画審査会は意見を言うだけで、事故が起きても何か責任を取ってくれる訳ではないにも関わらず。
あいまいな責任の所在
結局、誰の判断で、誰の責任で冬季の登山を実施しているのでしょうか。
「冬季の登山は万全の安全確認の元で実施している。もし事故が起きれば私が責任をとる。」
誰もそう言ってくれる方はいません。責任の所在もはっきりしないまま冬季の登山実施は許可されています。
那須雪崩事故の発生前と何が変わったのでしょうか。
責任の所在があいまいなのは、事故前も事故後もなにも変わることはありません。
繰り返し何度でも言いますが、那須雪崩事故では誰も責任をとっていません。
安全確認を怠り現場で事故を起こした顧問教諭は停職処分のみで、すでに職場復帰しています。
講習会への参加を許可した大田原高校校長は事故後すぐに定年退職となったため、何のお咎めもなしです。
講習会の実施を許可した登山専門部長は大田原高校校長が兼任していましたので、同じく何も責任をとっていません。
講習会の主催者である栃木県高体連会長も事故後すぐに定年退職し、何も責任をとっていません。
栃木県教育委員会への処分も軽微な文章訓告に留まり、教育長も給与の10%自主返納のみで処分を済ませています。
冬季の登山の責任
再発防止策では、教員の処分規定の見直しもなく、定年退職間近の教員への対処も何も変わるところがありません。つまり県教委も、高体連登山専門部も、学校長も、顧問教諭も、誰も何の責任も持たずに冬季の登山を実施していることになります。
冬季の登山は「積雪期にない低山」に限って許可するとなっていますが、こんな曖昧な基準では数年も経てば形骸化し、どこだろうと登山してしまうようになるのは目に見えています。しっかりとガイドラインに書いてあるから大丈夫だと仰るかもしれませんが、「降雪中とその翌日は行動を中止するようにすること。」としっかりと明記されている通知が破られて那須雪崩事故は発生したのです。
なんの制度設計もなしに顧問教諭らがガイドラインを守ることを前提に、誰も何の責任も持たずに冬季の登山を実施している現状は一体何なのでしょうか。
事故の反省はどこにあるのでしょうか。
高体連登山専門部の言い分
この質問に先立って冬山や雪上訓練について、登山専門部がどのような見解をもっているのか尋ねたことがあります。
その登山専門部への冬山登山に関する質問と回答は「県立学校が学校単位で行う登山の在り方については、県教育委員会が方針を決めるべきものであり、登山専門部が決定に関与することはありません。」というものでした。また、「登山専門部に所属する高校生を対象とした、積雪上での行事を再開することは、現在考えていません。」とも回答されています。
この回答の通り、雪上訓練については専門委員長は拒否の意思を貫かれ、雪上訓練は実施しないこととなりました。これは立派なことです。
しかし、自分たちに責任が及ばない各校で実施する冬季の登山についてはダンマリを決め込み、異論を唱えることはありませんでした。
各学校の言い分
冬季の登山実施を申請した高校の校長や顧問教諭に「なぜ冬季の登山を申請したのか」と訊いたとしたら、「栃木県教育委員会が冬季の登山を許可したので申請した。」と答えることでしょう。
事実、事故の検証も終わっていない昨年の夏に登山計画を申請したある学校の顧問教諭に「なぜ申請した」と問い質したら上記と同じ「栃木県教育委員会が登山を許可したので申請した。」という答えが返ってきました。その際、加えて「私たちもこんなに早期に登山が許可されるとは思っておらず、驚いた。」とも言われました。そんな状態であっても自分たちの頭で考えることもせず、安全性に疑問も持たずに登山計画を提出してしまうところに事故の反省を見ることはできません。
また、各学校の校長の責任で登山を許可しているということになっていますが、登山のことも知らず通知やガイドラインの内容も把握していない学校長になんの判断ができるのでしょうか。県立学校の校長は大抵は定年退職間近の教員が多く、定年まで数か月程度となるこの冬の登山に何の責任も持てないことは、那須雪崩事故に対して何の責任もとらずに退職した当時の大田原高校校長によって証明されています。
定年間近の学校長の責任の取り方が制度設計されていない現状では、学校長の定年1年前程度からは学校長の責任の下での登山活動は実施できないのではないでしょうか。
また、仮に教員の処分規定が改訂され、安全確認を怠って部活動で事故を起こした顧問教諭や許可をした校長は免職とするとしたらどうするのでしょうか。
そうなると途端に冬季の登山申請はなくなってしまうだろうと予想できます。そうだとすると、現状の冬季の登山申請になんの責任も持っていないことの証明になってしまいます。責任を持てない申請であれば現状でもすべきではありません。
栃木県教育委員会の言い分
冬季の登山を許可した栃木県教育委員会に「なぜ」と問い質しても明確な答えはありません。
「学校からの要望があった」と言われましたが、各学校に冬季の登山の実施要望を調査した形跡はありませんでした。
「登山計画審査会で専門家の意見を聴取し、決定した」と言うのでしょうが、意見を言うだけで責任もない元山岳部顧問が長である登山計画審査会の意見にどれだけの価値があるのでしょうか。
那須雪崩事故で誰も責任をとっていないこの状況で、県教委が責任を持って実施しますと言われても納得することはできません。
そう言ったら那須雪崩事故では賠償責任を認めたではないかと、もしかしたら反論されるかもしれません。
しかし、賠償は県教委が責任をとったことにならないと私は考えます。
賠償金は県民の税金から支払われます。県教委は責任を転嫁し、栃木県民に責任を負わせたとしか思えません。また、その予算もきっと別建てで補正予算を申請し、県教委の予算には何の影響も与えることはないのでしょう。県教委の予算が、その分減らされるのであれば多少責任を感じてくれるかもしれませんが、それすらそうはならないでしょう。
思い描いてしまう未来
冬季の登山実施を決めるまでどのような議論があったのかは知らされていません。登山計画審査会にて議論されたことになっていますが、何も議論もなく実施が決定されたことは、登山計画審査会を傍聴した方から証言が得られています。
那須雪崩事故発生前と何が変わったのでしょうか。
このままでは数年~数十年後に同様の事故が繰り返される未来しか想像できません。
以下は私が勝手に思い描いた現状の県教委や顧問教諭らのやりとりとその未来です。
思い込みで描いた完全にフィクションです。しかし、再び同様の事故が発生してしまう未来が容易に想像できてしまいます。
想像でひどいことも書いていますが、冬季の登山実施決定に至るまでの議論は、何も教えてもらえないので、そのやりとりを勝手に想像しその未来を思い描くのは私の勝手だと思います。違うというのであれば議論の内容を公表し、その結果に責任を持っていただきたいと思います。
私が想像した中では、栃木県教育委員会も、校長や顧問教諭も、登山計画審査会のメンバーも生徒の安全を何も気にかけていません。彼らは自分たちの都合を押し通すことのみに専念しているように思えます。
冬季の登山実施の方針を決めるまでのやりとり
冬季の登山実施の方針を決めるまでの議論は何も公表されていません。
制度設計もないまま冬季の登山の議論を始め、今後の講習会の在り方の議論もないまま唐突に雪上での訓練について議論を始めたことには大変な違和感があり、誰かの意思が働いているとしか思えませんでした。
繰り返しますが、以下のやりとりは私の勝手な想像です。
那須雪崩事故が発生したが、今後も変わらず部活動で登山を実施したい。
登山専門部には教員を育て、その教員が山岳会の中核メンバーとなる役割がある。
山岳会としても登山専門部の衰退は人材供給が断たれるので困る。
事故後しっかりと対策したと言いたいので、提言に沿ってガイドラインをまとめたい。
その中で登山に関する規則を決めたいと思う。
事故の影響をできるだけなくすよう、登山の制限は少なくしたい。
冬山登山についても禁止にすると、他県にまで影響が及ぶ。
全国高体連や検証委員会の委員からも禁止にしないようにと要請されている。
こちらも登山活動の衰退は困るので、できるだけ制限はない方がよい。
特に冬季の登山は制限しないようにしてもらいたい
山岳会の人材育成の場として、教員には冬山登山ぐらい経験しておいてもらわないと困る
では、ガイドラインにそのように記載いたします。
審査会で了承願います。
了解しました。
自分たちは意見を言うだけで、事故があっても責任をとることはないので了承することに問題ありません
これで外部専門家から意見を聞いたという体裁を保つことができます。
冬季の登山実施決定から登山計画の申請まで
冬季の登山実施について誰が責任を持っているのかわかりません。
定年間近の校長が責任を持てるとも思えません。引率の顧問教諭も「故意ではない」「規則を知らなかった」と言えば責任を逃れられることは那須雪崩事故で実証されています。
繰り返しますが、以下のやりとりは私の勝手な想像です。
低山等の積雪期にない山への冬季の登山を認めることとします。
登山計画審査会の意見を基に決定しました。
冬季に登山を実施したい高校は、登山計画を申請してください。
那須雪崩事故があったけど、冬季でも登山してもいいんだ。
顧問や保護者の中には反対意見もあったが、教育委員会のお墨付きなんだから実施しても問題ないだろう。
那須雪崩事故では顧問教諭の処分は停職どまりだった。
事故が発生しても責任をとらなくてもいいということだから、恐れず冬でも登山に行こう。
登山計画を申請します。
学校長、登山計画申請の許可お願いいたします。
教育委員会がいいと言っているのであれば問題ない。
どうせもうすぐ定年だから...
事故があったとしても責任はとらなくていいし。
登山実施当日
顧問教諭の暴走を止めるような制度設計は相変わらず何もなされていません。
中途半端な自信で無茶をしでかす教員が一定数いることを前提に制度設計しないことには、何度でも同様の事故が繰り返されてしまうことでしょう。
繰り返しますが、以下のやりとりは私の勝手な想像です。
今朝は雪が積もっているが、
審査会で登山の許可はもらっているので登山を実施します。
積雪時の歩行訓練にちょうどいいし、「降雪時は登山中止」という規則は知らなかったことにすれば問題ない。
君たち生徒を雪に触れさせたいと思う。
私は登山歴30年。
海外の雪山にも登ったことがあるから安心して付いてこい。
事故発生
このような流れが容易に想像できてしまいます。このままでは再び同様の事故が発生してしまうことでしょう。歯止めが何もありません。
制度設計も責任の所在もあいまいな現状では、事故が発生してしまうのは必然であると思います。
事故後
ひとたび事故が発生すれば、同じような言い訳をするのでしょう。
繰り返しますが、以下のやりとりは私の勝手な想像です。
こんな事態になるとは思わなかった。
絶対安全だと思っていた。
こんなに急な斜面だとは思わなかった。
こんなに雪が降るとは思っていなかった。
登山計画は申請し、審査され登山は許可されている。
登山の実施に問題はなかったはず。それでも中止にすべきだったとは思う。
「降雪時は登山中止」という規則は知らなかった。
こんな事態になり、反省しなければならない。
事故後の対応
教員の処分規定もなにも改訂されていませんし、制度設計もなにも変わっていません。
那須雪崩事故と同様の、身内に甘い処分が繰り返され、相変わらず制度設計に手を入れることはないことでしょう。
繰り返しますが、以下のやりとりは私の勝手な想像です。
故意で起こした事故ではないので、顧問教諭は免職には当たらない。
ガイドラインに強制力はないので、違反しても処分の量定に影響は与えない。
学校長はすでに定年退職されているので、処分は及ばない。
今後再発防止策として、ガイドラインの内容を見直し、再発防止に努める。
そして繰り返される
事故は何の教訓も残さずに、再び事故は繰り返されてしまうことでしょう。
私の勝手な想像で終わればいいと思います。
今朝は雪が積もっているが、
審査会で登山の許可はもらっているので登山を実施します。
コメント