事故から2年近く経ちました。
この2年の間、事故を引き起こした登山専門部の教員や栃木県教育委員会と相対してきました。その結果わかったことは、彼らは本気で事故に向き合うつもりがないという事実です。
狡猾さと小賢しさ
彼らは問題の本質には目を向けず、形式的に対策を実施し、体面を保つことばかりに注力しているように思えます。
そして「今まで通り」に部活動を実施できるように、巧妙に制度設計を仕組んでいるように思えます。彼らの態度からは事故に向き合う真摯な姿勢は感じられませんが、そのような狡猾さや小賢しさだけは感じることができます。
事故の反省がない
栃木県教育委員会は事故の再発防止として登山に関して規則やガイドラインをいろいろと定めています。しかし、その中に定量的な指標はほとんど何もありません。定量的に定めてしまうと守らなければいけなくなり、今まで通りの部活動ができなくなってしまうためです。
その中で定められた数少ない指標も、引率教員には「登山経験5年以上」を求めるといった何の根拠もない事故からの反省が何も感じられないものとなっています。那須雪崩事故を引き起こした教員には30年以上の登山経験がありました。それなのになぜ「登山経験5年以上」という要件を定められたのでしょうか。事故の反省があったならば、経験年数だけではなく、この教員には何が不足していたのかしっかりと検証して引率教員の要件を根拠を持って定めるはずです。何の根拠もなしに「登山経験5年以上」などと引率教員の要件を定めたりするわけはありません。
中立とは言えない登山計画審査会
さらに、栃木県教育委員会が策定した再発防止策では指標や基準を曖昧にした上で、様々な判断を「登山計画審査会」なる外部組織に丸投げする制度設計となっています。登山アドバイザーの派遣の有無や冬季に登山できる山域の判断についてもなんの指標もなく、すべてこの組織で判断されています。
この外部組織の専門性と中立性がしっかりと担保され、部活動としての登山の在り方が議論されているのであればそういった制度設計で構わないのかもしれません。しかし構成メンバーから判断して、この組織に中立性があるとはとても思えません。
登山計画審査会の長である委員長は元教員で元高校山岳部顧問であり、事故を引き起こした元凶である高体連登山専門部のOBです。なぜこのような経歴を持つ方を、重要な判断を任せるこのポストに置くのか理解に苦しみます。登山計画審査会の他のメンバーも山岳関係者や登山専門部の教員で占められており、登山活動推進に積極的なメンバーばかりです。部活動として登山活動をどのように線引きするのか議論できるとは思えません。
登山計画審査会は中立性のある外部組織からはほど遠い組織であり、部活動として高校生の登山がどうあるべきか議論できる場ではありません。
議論もない安易な判断
事実、県内の山は「根名草山」を除くその他すべての山については危険性が小さく、登山アドバイザーの派遣は必要なしと登山計画審査会によって判断されています。県内のほとんどの山は顧問教員だけの引率で登山できるということです。
さらに県外での冬季の登山もなし崩し的に許可されています。
那須雪崩事故は栃木県内の比較的低山で引き起こされたことから考えるとこれらの判断はおかしな話だと感じます。
事故の反省もなんの議論もない、「今まで通りに」部活動を実施したい栃木県教育委員会の意向をうけた、登山活動に前のめりなメンバーによる安易な判断だと思えます。
登山アドバイザーの派遣もない中、勝手な判断をしでかして生徒の生命を危険にさらす教員を一体誰が監視するのでしょうか。顧問教員らの無謀な判断によって那須雪崩事故が引き起こされたことを教訓とした判断を願います。
栃木県教育委員会の狡猾さ
この事実から、様々な判断をする機関を形式上外部に置いて権限を与え、その外部組織のメンバーを身内で固めることによってコントロールしようとしている栃木県教育委員会の狡猾な意思を感じます。
その結果、今まで通り登山は教員が引率し、なにも変えずに山岳部の活動を続けることができてしまっています。一体どこに事故の反省があるのでしょうか。この結果には栃木県の山岳関係者と栃木県教育委員会はしてやったりでしょう。
失望と怒りしか感じるものがない
本質的な改革には手をつけず、なにごとも正面から議論することなく、曖昧な規則と栃木県教育委員会の身内で固められた外部組織によって状況がコントロールされてしまっています。今まで通り何も変えない状態を突き通そうとするその姿勢からは失望と怒りしか感じるものがありません。
なぜ自分たちを厳しく律することができないのでしょうか?なぜ身内だけで物事を決定し、外部の専門家や保護者・生徒の意見を聞こうとしないのでしょうか?なぜ「今まで通り」を突き通そうとするのでしょうか?
事故の記憶が薄れてほとぼりが冷めた頃、なんの議論もなく登山計画審査会の判断という名の下で雪山登山を再開したり、登山アドバイザーの派遣制度を有名無実化する腹積もりなのではないでしょうか。そういった危惧を抱かざるを得ません。
それともそういった判断を待つまでもなく、教員の勝手な判断で雪山登山は再開されてしまうのかもしれません。実際、那須雪崩事故の検証委員自らがそのような勝手な判断をしでかしているのですから。罰則もないため、その無謀な判断を止める術はありません。
いずれにしても、事故後2年近く経っても事故を防止しようとする気概も反省も見られない教育関係者に対する感情は、失望と怒りしかありません。
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