遺族は納得していません。 通知が守られず事故が発生したこと、それが問題視されていないこと、そこに対策がないまま再発防止策が作られること。

中止にすればよかったんだよ


那須雪崩事故は30cm以上の降雪があった日に雪中歩行訓練を強行し、雪崩発生の危険の高い斜面に足を踏み入れてしまったことで発生しました。
 
その日は登山講習会3日目の最終日で、午前中で講習は終了し、息子たちは午後には帰宅する予定でした。当日の天候は平地でも降雪があり、3月下旬としては異常と言えるものでした。当然講習会は切り上げられ、息子は昼を待つことなく早めに帰宅してくるだろうと考えていました。雪の重みでテントがつぶれて息子たちが大変な思いをしていないか、帰りのバスや電車は動くのかといったことは心配していましたが、まさか訓練が強行され、あのような危険な斜面に足を踏み入れているなんて想像もつきませんでした。
 
なぜ、講習会を中止として切り上げることができなかったのでしょうか。そんなに難しいことだったのでしょうか。30cmの降雪という異常な天候でも中止とならずに止まらないのであれば一体どうなれば止まったのでしょうか?50cmや1mの降雪があったとしたら止まったのでしょうか?
きっとそれでも止まることもなく、危険な訓練はなにがあっても実施されたことでしょう。
 
あれだけ雪が降ったんだから講習会なんて中止にすればよかったんだよ」、今でも私の心の中で息子はいつもそう言っています。悔しさは消えません。
 
そして、事故から3年以上の年月が経った今でも、危険な天候の下でも止まることなく部活動が実施されています。
 
無理な時には無理をしないで止まっていただきたい。
私の願いはそれだけです。

熱中症対策について基準を設けるべき

無理をせず生徒の命を守るための施策として、部活動に於ける熱中症対策をどうにかして欲しいと県教委や高体連にずっと訴えかけてきました。

どんな真夏日であっても部活動が強行され、子供たちが熱中症で倒れるという事態が日常的に起こっています。「無理な時に無理をしている」ようにしか私には見えません。そう思うのは、熱中症を気に掛けることもなく、一日中締め切った体育館で部活動を実施し、何人もの生徒が倒れている実態を目の当たりにしているためです。

多少無理をすることはあってもいいことなのかもしれませんが、さすがに35℃に達するような真夏日には部活動も大会も、冷房のある環境以外の場所では活動を控えるべきかと思います。

一般的に35℃に達しようという真夏日には「今日はさすがに暑いから活動を控えよう」と言って、外出すら控えることが通常の感覚かと思います。しかし、部活動に於いてはこのような通常の感覚や常識は通用せず、「生徒のため」という言葉を旗印にして生徒たちの身体・生命を危険に晒すような行動を顧問教員たちは平気で行っています。

那須雪崩事故の反省を踏まえ、大会実施の安全を確保するために高体連によって作成されたはずの「危機管理マニュアル」にも熱中症対策についてはいい加減なことしか書いてありません。「危機管理マニュアル」の競技別のチェックシートには「熱中症指数を確認したか」とだけ記載があり、熱中症指数をチェックさえすればよいことになっています。これでは40℃になるような明らかに危険な環境であっても、熱中症指数をチェックし、大会主催者の主観だけで「安全だ」と判断すれば大会が実施できてしまいます。

主観で判断するのではなく、「熱中症指数31℃以上に達した場合は大会を中断する」「熱中症警戒アラートが出た日には大会を中止とする」といった具体的な基準を設けて、生徒の身体・生命をしっかりと守る必要があると考えられます。

部活動は止まれない

主催者や顧問教員が真夏日のようにあまりに暑い日には活動を停止するような一般的な感覚や常識をもち合わせているのであれば、熱中症対策についての基準作りなど必要ないのかもしれません。あまりに暑ければ中断もしくは中止すればよいだけのことですから。

しかし、現状においてもそのようなことはなく、熱中症警戒アラートが出るような危険な日であっても平気で陸上大会が実施されています。

新型コロナウイルスのために春先から中止となってしまった大会も数多くあったため、少しぐらいの無理をしてでも大会を開催したい気持ちはわかります。しかし、熱中症警戒アラートが発令されており、トラック内の気温が38℃にも達している中、平気で陸上の大会を開催してしまうのは、一般的な感覚からすると常軌を逸しているように思えます。

そんな心配は素人考えで、「熱中症警戒アラートなんて気にしすぎです。アラートが出るような状況であっても、鍛え上げているアスリートなら平気なんですよ。」と言われるのかもしれません。実際、大会の要綱には次のような記載があります。

・競技者は概ね 1 ヶ月以上のトレーニングを積み、暑熱環境に馴化していること
・指導者・顧問は競技者の心身の状況をよく見極めて参加申込みをすること
・暑熱環境下での実施となることから、競技者の健康面や発達段階について競技会への参加に適しているか、十分配慮すること
・長距離種目については開始時間を17時以降とする

酷暑日であっても耐えられると宣言できるアスリートにのみ参加してもらい、長距離の種目については涼しくなるであろう時刻に開始時間を変更するように通達されています。素人である私が知らないだけで、鍛え上げられたアスリートであれば、熱中症警戒アラートが発令され、気温が38℃に達する過酷な条件でも熱中症になることはないと断言できる根拠があるのかもしれません。
しかし、それでも基準は必要であろうと思います。さすがに50℃になったら競技を中止するでしょうから、上限がなく基準を決める必要がないということはあり得ないと思います。

そんな基準など無くても、今まで大会で生徒が命を落とすような重大事故は発生していないと言われるかもしれません。
しかし、熱中症警戒アラートが発令されていても、気温が38℃に達したとしても大会は実施されるのだとしたなら、その環境でも実力を十分に出せるように、生徒たちは日ごろからその気温に近い状況で積極的に練習してしまうことでしょう。これでは練習中の熱中症の危険性が増大してしまいます。そしてそんなことのために普段の練習中に重大事故が起こってしまったとしても大会の主催者や関係者は我関せずを決め込むのではないでしょうか。原因が大会にあったとしても大会実施中に起きた事故ではないのですから。

教員は止まれない

35℃を超えるような猛暑日に熱中症を引き起こしやすい競技である陸上の大会を開催し、参加した生徒が熱中症で命を落としたとしても、命を落とした点については一般的な感覚ではなにも不思議に感じることはないでしょう。「なぜそんな無理をしてしまったんだ」とは思うでしょうがが。

那須雪崩事故も30cmを超える積雪の中、雪中歩行訓練を強行し、雪崩の発生しやすい斜面に足を踏み入れたのですから雪崩事故が発生しても不思議はありません。
降雪のあった後の雪崩の危険性を、雪中歩行訓練実施を決めた教員たちが知らなかった訳がありません。そして足を踏み入れた斜面は、少しでも雪崩の教育を受けたものであれば危険であることは一目瞭然の斜面です。それでもその斜面に足を踏み入れたのは、「大丈夫だ」との間違った確証があり、その確証は過去にこのくらいの斜面でも雪崩は発生しなかったという間違った自信によるものだと思います。下手に知識のある人に限って間違った自信によって事故を引き起こします。

熱中症の危険を認識しているに関わらず「今までだって大丈夫だった」「このくらいの暑さでも大丈夫だ」などと根拠のない自信を持ち出してWBGT(暑さ指数)といった広く世間に認められた指標すら無視して何の基準もなく部活動や大会は続けられています。特に教員は「生徒のため」という言葉を旗印に、「大丈夫だろう」との思い込みだけで生徒の命を危険に晒して大会を続行しようとするでしょう。こんな曖昧で危険な状態はもう止めにしていただきたいと切に願います。

熱中症警戒アラートが発令している中、大会や部活動を実施してしまうのは、那須雪崩事故で訓練を強行して雪崩の危険性の高い斜面に足を踏み入れた那須雪崩事故の状況と何が違うというのでしょうか。

現状はロシアンルーレットのよう

「いやいや、WBGTは厳しすぎの指標で、守らなくても大丈夫なんです。」と言われるのであれば、自分たちが信じる他の指標をしっかりと示し、周知させるべきです。その指標さえ守れば熱中症警戒アラートが発令されていたとしても熱中症の危険はないんだと宣言していただきたいものです。そして私のような素人が心配して「熱中症警戒アラートが発令している中、陸上大会を開催するとは何事だ」と言わないように納得させていただきたいと思います。

現状はロシアンルーレットのような状態に思えます。銃に弾丸は込められていていつ死んでもおかしくない状態であり、死者がでないのはただの幸運なのではないでしょうか。

実際、部活動によって多数の熱中症が引き起こされ、死者も多数出ています。
スポーツ振興センターに申請された死亡見舞金の記録から集計すると、学校管理下でH2-H24の23年間で80件の熱中症による死亡事故が発生しているそうです。

行政 法人日本スポーツ振興 センター 学校災害防止調査研究委員会
体育活動における熱中症予防 調査研究報告書(H26.3)より

 

学校の管理下の熱中症の発生傾向

そのうち運動部活動によるものは69件でほとんどを占めています。平均すると年間3人ぐらいが部活動による熱中症で亡くなっている計算です。きっと発生は7-8月に集中しているでしょうから、乱暴に言うと毎年この時期は1か月に一人は部活動中に熱中症で命を落としていると言えるのかもしれません。

このような状態を続けると、今年は大丈夫だったかもしれませんが来年は熱中症で重大事故が発生してしまうかもしれません。まさに那須雪崩事故発生前のいつ事故を引き起こしてもおかしくなかった状態の登山専門部に酷似しているように思えます。

なにも指標を示さないまま酷暑日であっても部活動や大会を実施し、根拠のない自信で生徒の生命を危険に晒す行為はもう止めにしていただくようお願いいたします。

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コメント

  1. 大江隆夫 より:

    「中止にすればよかったんだよ」読ませていただきました。学生時代から山岳部で経験をしてきた一登山愛好家として一言コメントいたします。当日の異常な積雪で茶臼岳登山を中止し歩行訓練に切り替えたことは正常な判断だと思います。若い高校生にとってスキー場のゲレンデで新雪のラッセル訓練は得難い経験の場になったと思います。ファミリースキー場のゲレンデ内であれば若い高校生のエネルギーを思い切りラッセル訓練にそそぐいい機会でした。問題はラッセル訓練の場所の指定を明確にしなかったこと、何をどこでするか明確な指示を集団に出さなかったこと、だと思います。ずるずると斜面の上まであまり考えずに行ったことが致命的でした。登山、特に積雪期の登山は天候に大きく左右されるのは常識です。それにどのように対応するかでパーティーの力量が問われます。積雪があったから登山を中止という姿勢では登山の技術や経験のレベルは上がりません。その場の状況に応じて安全に訓練を続行できる経験、ノウハウ、判断力がリーダーには求められます。集団を引率した教師の皆さん、特に中心的存在であった2名の教師の方には残念ながらその判断力がなかったと言わざるをえません。

    • 御GU 父 より:

      コメントありがとうございます。

      >「当日の異常な積雪で茶臼岳登山を中止し歩行訓練に切り替えたことは正常な判断だと思います。」

      この訓練を登山行動として見て、この事故を山岳事故と捉えるならば、その通りだと言えるのでしょう。
      リーダーであった講師の力量が足りなかったことが問題であり、訓練を実施したこと自体には問題はなかったと言えるのでしょう。
      危険性は認識していたはずですが、なぜ行動範囲を決定せず曖昧にしたのか、なぜずるずると行動してしまい途中で止まることができなかったのか、なぜ講師は的確な指示は出せなかったのかといった点が問題であったとなります。
      登山経験者の方はこの切り口でこの事故を語られることが多いように感じます。
      那須雪崩事故検証委員会の報告書の結論もこの言い方に近く、再発防止策としてリーダーである教員の力量を高めることを求めています。

      また、別の切り口で、この訓練を講習会として認識した場合、異なった見方で語ることができます。
      決まった場所で実施すべき講習会だったのですから、安全確認もされていない場所で、予定にない訓練を思い付きで実施すべきではありませんでした。
      もしこのような雪中歩行訓練を実施するつもりだったのであれば、雪が降った場合に実施する訓練として事前に予定に組み込んでおくべきでした。
      そして事前に訓練場所として地形的に安全な場所を選定し、当日の積雪状態を確認するなど下見まで実施すべきだったはずです。
      比較的自由にルートや訓練場所を選定できたのですから、積雪があったとしても安全に訓練を実施できる場所を事前にいくらでも選定できたはずです。
      そのような事前の準備がなかったのであれば、雪中歩行訓練は実施すべきではなかったと言えるでしょう。

      また、この講習会は部活動としての側面もありました。
      引率の教員には事故防止に関する重い注意義務があり、学校の活動として危険な行動はすべきではなかったはずです。
      多量の降雪があった翌朝にリスクのある訓練は実施すべきではなかったと言えるでしょう。県教委からそのような通知も出ています。
      登山行動としての側面で捉えると危険だからと言ってなんでも中止にしてしまえば力量が上がらないという問題があるかもしれません。
      しかし、事故防止に関する重い注意義務があるはずの部活動でそのようなリスクをとることは問題があるでしょう。

      切り口によって見方も異なり、異なった意見がでます。
      いろいろな切り口で事故を検証し、再発防止の施策についてもいろいろな切り口で見るべきだと思います。
      しかし、那須雪崩事故の事故検証委員会や高校生の登山計画を審査する登山計画審査会ではこの事故や山岳部の活動を単なる登山事故・登山活動として捉えており、講習会としての側面や部活動としての側面を見落としていることが多くあるように思え、問題があると感じています。
      それは検証委員会や計画審査会が登山家や登山経験者が大勢を占めるような構成であるためと思われます。
      講習会として、部活動として、山岳部の活動を今後どうしていくべきかは議論が不足しているように思います。

      また、議論そのものが不足していると思われる点もあります。
      事故後、今後山岳部の活動で雪上活動を再開することを認めるか否か登山計画審査会で議論になりました。
      その議事録を読む限り、雪上活動を「できるかできないか」といった表面的な話だけがただ話し合われているように見えました。
      安全に雪上活動を実施するためになにが必要なのか、現状ではなにが不足しているのかという技術的なことは議論されていないようでした。
      そして、その結論は「現場の教員は雪上訓練にナーバスになっており、現状で(雪上活動を)認めることはできない」というお粗末なものでした。
      事故から時間もあまり経っておらず、引率する教員が嫌がっているからやらないそうです。これではただの精神論です。

      「登山活動として」、「講習会として」、「部活動として」など、本来なら雪上活動を再開するために必要な施策をいろいろな切り口で議論すべきでした。
      そして必要な施策を実施するためのロードマップを技術的に明らかにし、実現可能かどうか検証すべきでした。

      このような必要な議論もできず、精神論でしか物事を語れないのであれば、今後も栃木県の高校山岳部は雪上活動をすべきでないと私は感じています。

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